CHRISTMAS

ハロウィンから時が経ち、ヒメノ達が住む村にクリスマスが近づいてきました。

村ではクリスマスをお祝いする為の準備が進んでいます。

以前大きなかぼちゃが飾られた広場には、今は大きなモミの木が置かれ、子供達はそのモミの木に飾るお人形や飾りを作っています。

家々の全ての扉には、その家ごとにリースが飾られ、教会には毎日子供達が聖歌の練習の為に通っています。

その村から少し外れた森の奥に、トーゴの住む大きなお屋敷はありました。

いつもクリスマスを一人で過ごしていたトーゴですが、今年は違います。

今日も、お客が来ていました。

ハロウィンの時に仲良くなった、ヒメノです。

「トーゴさん、じゃあこの飾りはこっちでいいですか?」

「うん。オレ、こういうの慣れてないから、ヒメノがいいと思う様にして。」

「わかった!」

このお屋敷は、死んだトーゴの両親が残したものですが、今までクリスマスの為に飾り付けをしたり、という事は殆どしていませんでした。

それを聞いて、ヒメノが飾りつけの手伝いに来てくれたのです。

大きなお屋敷に合わせて、クリスマスのリースも大きめに作って持ってきました。

窓枠に、綺麗なリボンを吊るし、部屋の至る所に手作りのお人形やお星様の飾りつけがされます。

全ての飾りつけが終わった頃には、外は真っ暗になっていました。

トーゴはランプを持って道を照らし、ヒメノを村まで送って行きます。

歩きながら、ヒメノはクリスマスの日に歌う賛美歌を歌いました。

「トーゴさん、良かったら聞きに来てね。」

ヒメノがにっこりと笑い、トーゴもそれに応えて笑います。

はあ、とヒメノは息を吐き、それが白くなるのを見て「寒いね」と言いました。

トーゴも一緒に、はあ、と白い息を吐きます。

一人で冬を過ごしていた頃は、息が白くなる事に対して何も感じる事はありませんでしたが、ヒメノがこうやって何かに驚いたり、新鮮に感じているのを見ていると、トーゴもなんだかこの世界が色鮮やかな物に見えてきました。

「綺麗だね。」

ヒメノが言います。

「そうだね。」

トーゴが応えます。

気付くと、雪が降ってきていました。

暗い森に、少しづつ雪が積もります。

足元を照らす光が、雪に反射して道がどんどん明るくなっていきます。

「…綺麗。」

ヒメノがもう一度言いました。

きっと明日になれば村もこの森も真っ白になっている事でしょう。

四季の変化が、こんなにも美しいものだなんて、トーゴは今まで気が付きもしませんでした。

それだけ、トーゴは今まで世界を閉ざして生きてきたのです。

ヒメノが歌っていた歌を、今度はトーゴが歌いました。

ヒメノは嬉しくて一緒に歌いました。

「トーゴさん、クリスマスはどこで過ごしますか?」

「…どこ?」

「クリスマスは、家族か、大事な人と過ごすものなんですよ。」

トーゴは、そう言われて黙ってしまいます。

家族はもういません。

大事な人は…。

「良かったら、狭いですけど家に来ませんか?」

そう言われて、トーゴははっとします。

「トーゴさんは、とっても大事な人です。お母さんも、トーゴさんが来るのを楽しみにしてますよ。」

そう言って、ヒメノはまた歌います。

ハレルヤ、ハレルヤ。

しんしんと雪が積もります。

月の光に照らされて、森はキラキラと輝きます。

その静かな森に、ヒメノの歌声が響きます。

トーゴはランプの明かりを消しました。

ランプの明かりが消えても、月明かりで森の中はとても明るいのです。

白い雪の中、透明な声で歌うヒメノを「天使の様だ」とトーゴは思いました。

出会った時は魔女の格好をしていました。

今は、天使です。

「…クリスマスには、七面鳥を持っていくよ。」

トーゴが言いました。

ヒメノが、にっこりと笑います。

「じゃあ、三人分、お願いします。」

トーゴが、手を差出しました。

ヒメノが、その手を握りました。

ひやりと冷たい手に驚き、トーゴはヒメノの手を包むとはあ、と息を吹きかけます。

「トーゴさんは、優しいですね。白い髪の…綺麗な、天使みたい。」

浄化、という言葉があります。

トーゴの頭の中に、その言葉が浮かびました。

(神様、もうこれ以上他に何もいりません。)

心の中で祈ります。

(ハレルヤ。ありがとうございます。)

二人は手を繋いで歩きます。

村までの道はキラキラと輝きます。

「綺麗ね。」

今夜三度、ヒメノがそう言いました。

トーゴが頷きます。

「世界は、美しい。」

ヒメノが「綺麗」と言う度に、トーゴに見える世界も美しく変わっていくのでした。


あとがき
3333HITキリ番リクです!
HALLOWEENの世界でクリスマスものを…という事でした。
クリスマスというか、クリスマスの前の話しになってしまいましたが、こちらリク下さいましたマシロセツナさんへ!
ありがとうございました!!
2006.12.02

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