チカイ。

カタン。

「ひゃ?」

下駄箱に手を突っ込んで。

姫乃はいつもと違う感触に驚いて思わず手を引っ込めた。

「どうしたの?姫乃。」

友人が声をかける。

「えっと、何か入ってるみたいで。」

下駄箱になんて毎日殆ど無意識に手を伸ばしている。

わざわざ中を確認なんかしたりはしない。

見慣れないその下駄箱の中に入っていたのは、また見慣れない白い封筒。

掴んで取り出せば差出人不明の四角い手紙。

「…エッちゃん。これ。」

その手紙に戸惑って思わず友人に助けを求める。

「…ラブレター?何か、ベタって言うか古い手法よね…。」

白い封筒をパシンと指で弾くとそう言った。

エッちゃんはいつも手厳しい。

「え、でもこれ、どうしよう。」

「…どうしようって。自分で決めなよ。姫乃今フリーなんでしょ?相手見て付き合うもいいし、めんどくさいならほっといたらいいし。」

姫乃は友人にも今冬悟と付き合っている事は言っていない。

言ってしまえばきっと思わず色んな事を話してしまい、それを誰かに聞かれたり、態度に出たりしてしまうかもしれない。

うーんと唸るって手紙とにらめっこしていると「遅刻するよ」と歩き出す友人。

「あ!待って!!」

姫乃もそれを慌てて追いかける。

手紙を開く間もなくHRが始まり、担任である明神が教室に入ってくる。

「オラ早く座れ〜。出席とるぞ。」

バタバタと生徒が席につき、明神が生徒の名前を呼び始める。

「赤石、石田、石川…。」

姫乃は机の中で手紙を取り出した。

まず、手紙=ラブレターという図式自体を疑ってみよう。

違うかもしれないし。

大体今まで自分は色恋なんて無縁だと思っていた。

冬悟という人を知る前までは。

封筒を開け、中の紙を引っ張り出す。

チラリと開けて中を覗く。

「桶川!」

突然、大声で呼ばれて姫乃は思わず立ち上がる。

「はい!!」

はっと我に返ると周りのクラスメイトがくすくすと笑っている。

「三回呼んだぞ。目ぇ開けて寝てたのか?」

意地悪い笑顔で冬悟が言う。

クラスメイトがドッと笑った。

「すみません…。」

顔を赤くして着席する姫乃。

出欠を続ける冬悟。

覚えてろ、と思いながらももう一度手紙を開く。

何だか気が抜けた。

どうでもいいや何て思いながら開いた手紙には「放課後、校舎裏で待っています。何時間でも待ってるから、来てください。1−C江村」

…。

抜けた筈の気が、どっと重くなった。






「来て下さいって言われてもねえ。」

昼休み、手紙をペラペラと振りながら友人がため息を吐く。

「どうしよう。コレ行った方がいいのかな。ほったらかしにするのも悪いし、でも用件も解らないし。」

「用件は告白以外の何者でもないに決まってんでしょ!?これで果たし状だったら怒るよ私しゃ!」

轟々と姫乃を怒鳴るとジュースに挿したストローをパクリとくわえ勢い良く吸う。

それをトン、と机に置くと友人はぐいと姫乃の方へ身を乗り出した。

「で?どうなの?実際。」

「実際」の意味が良くわからない。

姫乃は首をかしげて「え?」と聞き返す。

「江村!隣のクラスの奴でしょ?顔知ってる?」

ああ、と言いながら姫乃は記憶を辿って隣のクラスメイトである江村の顔を思い出す。

何度か話しかけられた事があるから覚えている。

サッカー部でややくせのある茶色の髪を肩まで伸ばしていて、顔はなかなか男前。

話をした感じでは嫌な人だとは思わなかった。

けれど、恋愛感情を抱けるかと言えばNO。

今姫乃の頭には冬悟以外に入る隙間なんて微塵もない。

「けっこう、顔いいし人気もある奴だよ〜。姫乃、ついに彼氏作っちゃう?」

想像もしない言葉にブンブンと大きく首を振る姫乃。

「だ、駄目!無理無理彼氏とかそんなの駄目!」

その様子を見て乗り出した体を椅子に収め、頬杖ついて姫乃を見る友人。

困った顔をして笑う姫乃。

友人も姫乃が冬悟、つまり「明神先生」と付き合っているという噂を聞いた事があるけれど、姫乃がそれを言わない限りは知らない、もしくは姫乃には彼氏がいないという態度を取ろうと思っている。

隠しているにしても、噂が嘘にしても、姫乃が先生を好きだという事実は何となく知っている。

だからそれ以上は本人の問題と考えている。

「ま、姫乃が好きにしたらいいよ。」

最後は笑って姫乃の背中をバンバンと叩いた。





昼休みが終わり、午後の授業も終わると生徒達はクラブへ向かったり帰宅したりとそれぞれの行動を始める。

姫乃は手紙を鞄の中へ入れると教室を出た。

そのまままっすぐ校舎の裏へと向かう。

ちゃんと会って断ろう。

それが礼儀だと思ったし、これから二年間何度か顔を合わせる事になるであろう相手と気まずくなるのも辛いと思った。

やや急ぎ足で校舎を抜け、靴を履き変えると普段あまり行く事のない校舎裏へたどり着いた。

先に来ていた江村が姫乃の顔を見ると嬉しそうに顔をほころばせる。

「あ、来てくれたんだ。」

「…うん。あの、それで。この手紙。」

姫乃は恐る恐る鞄に入れた手紙を取り出して江村に差し出した。






冬悟は社会科準備室で携帯を開くとため息を吐いた。

「ひめのん、朝の怒ってんのかな…。」

いつも姫乃は昼休みになると電話をかけてきたりメールを送ってきたりしていた。

今日はそれがなかった。

何か思い当たるふしがあるとすれば朝、HRの時にあったあの出来事。

ぼおっとしていたのか何度呼んでも返事をしなかったので、ついついからかってしまった。

「でもアレくらいでなー。」

携帯を握り締めて机に額を付ける。

たったこれだけの事でこんな風に悶々としてしまう自分が情けないと思うけれど、性分なんだから仕方ない。

ぷーと息を吹き出して白い前髪を揺らす。

帰りにケーキでも買って帰るかと立ち上がると、窓の向こう側から声が聞こえてきた。

「んあ?」

カラリと開けて下を見ると、生徒が二人。

男女。

片方は、今冬悟が悶々とした気分になっている原因、兆本人。

社会科準備室は校舎の二階で場所としては正門から間逆に位置している。

つまり、今姫乃達が居る「校舎裏」の真上にあった。

思わず、冬悟は窓から身を乗り出した。

「…うん。あの、それで。この手紙。」

姫乃が相手に手紙を渡す。

何だあれ?何があった?何してる?

一瞬にして悶々とした気持ちが不安な気持ちに切り替わる。

相手の男、生徒は1−Cの江村。

その江村が口を開く。

「こんなところに呼び出したりしてゴメン。あのさ、桶川って今付き合ってる人とかいんの?」

長い長い沈黙。

姫乃は何も答えない。

冬悟の心臓が走り出す。

その沈黙に耐え切れず、江村が口を開く。

「…あの、桶川。オレと付き合ってもらえない…かな?」

その質問には、姫乃は直ぐに答えた。

ぺこりと頭を下げ。

「ごめんなさい。」

今度は江村が俯き、暫く沈黙する。

冬悟は乗り出した体をそのままに、江村の反応を待つ。

姫乃は済まなそうな顔で黙ったままの江村を見ていたけれど、は、と小さく息を吐くと「ごめんね。」ともう一度小さく言った。

「他に、好きな奴とかいんの?」

「え?」

搾り出す様な江村の声。

姫乃は暫く迷った後、首を縦に振る。

「…あの噂、ホントなのか?」

「噂?」

「桶川と明神、付き合ってるって。」

冬悟はずるりと体を窓の中へと入れる。

窓際を背にして座り込む。

両腕で自分の体を抱きしめると短く息を吐いた。

姫乃は何も答えない。

否定もしない。

肯定もしない。

冬悟には姫乃が何も言えない理由がわかっている。

嘘が吐きたく無いとい訳ではなくて、そんな単純な事ではなくて。

嘘でも「私は先生とは何でもない、付き合ってもいないし好きでもない。」という言葉を言いたくないから。

この場を丸くおさめるなら嘘でも何でも言ってしまえばいい。

けれど姫乃はその嘘、その言葉を自分の口から言いたくなかった。

黙ったままじっと下を向く。

「なあ、ホントなのか?桶川。」

姫乃が困ってる。

助けないと。

けれど今、自分が出て行くと状況は悪い方へと向かってしまう。

最悪、二人が付き合っているという事がばれてしまう。

「桶川!」

ビクリと姫乃の肩が震える。

嘘でも言えばいいのに。

それが出来ないのはわかってる。

ならオレが行くしかないだろう?

裏切りたくない。

姫乃の信頼。

そして何よりこのまま自分の保身の為に姫乃を放ってしまえば多分一生自分を呪う。

立ち上がって窓に向かい、江村を制止しようと息を吸う。

その時。

「何やってんだよ。」

声が違う方向から響く。

冬悟より先に江村を制したのはクラスメイトの眞白エージ。

「眞白君?」

つかつかと二人に近づくとそのまま姫乃の手を取ってその場を去ろうとする。

「眞白!」

怒鳴る江村を一瞥するエージ。

「桶川はお前とは付き合わないって言ったんだろ?ならそれ以上もそれ以下もないだろ。桶川が誰が好きだろうが誰と付き合って様がお前にゃ関係ねーよ。」

カッとなりエージの胸倉を掴む江村。

「お前が桶川と付き合ってんのかよ!?」

「…どっちでも、それもお前にゃかんけーねぇよ。」

江村の手を振り解くと姫乃を連れてその場を去る。

暫く江村はその場で立ち尽くしたまま動かなかった。

「眞白君、痛いよ腕。」

「ああ、悪い。」

言われて、今まで腕を掴んで引っ張っていた事を思い出し手を離すエージ。

歩いて歩いてここは校門の前。

そのまま姫乃を置いて帰ろうとするエージに姫乃は慌てて声をかける。

「ゴメンねっ!…ありがとう眞白君。」

エージは振り返るといつも不機嫌そうにしている顔を、より一層不機嫌そうに顰める。

「バーカ!付き合う気ねえならのこのこあんなとこ行くんじゃねえよ!」

「だって…。ずっとほっといたら夜になっちゃうかもしれないし。悪いよそんなの。」

「ほっときゃいいんだよ。どうせ断るなら一緒だろ?」

「う…。そうだけど…。でもさ、眞白君どうしてあそこにいるって知ってたの?」

「昼休み教室でデッケー声で話ししてりゃ聞こえるだろ。」

「それで、わざわざ来てくれたんだ。」

「……悪ィかよ。」

口を尖らせて口ごもるエージ。

そのままくるりと背中を見せ、歩き出す。

「ありがとう。…これから気をつける。」

これから。

少し複雑な気持ちになるエージ

痛めている肩がピシリと痺れた。

「おう。これから気を付けろ。じゃあな。」

ちらりと姫乃を振り返ると、それだけ言って帰っていった。

姫乃も気を取り直しため息を一つ。

江村には心の中でごめんなさいともう一度言うと帰路についた。





それから数時間。

姫乃はそのまま真っ直ぐうたかた荘に帰り御飯を作って冬悟の帰りを待った。

…けれど、その冬悟がいつまで経っても帰ってこない。

食事が並んだテーブルに姫乃と勇一郎が並んで座る。

そわそわと時計を気にする姫乃と新聞を広げてのんびりしている勇一郎。

「…遅いね、冬悟さん。」

「そうだなあ〜。せっかくの飯が冷めちまう。」

「先、食べてます?勇一郎さん。」

そう言うと、はっはっはと笑って新聞から一度目を離す。

「待ってるよ。残業でもしてんだろ。」

その言葉に笑って頷くも、手にした携帯を開きメールが入っていない事を確かめるとため息をつく。

何度もメールを送った。

けれど返事が来ない。

「ちょっと外見て来ますね。」

「んお?気をつけてな〜。」

とうとう姫乃が立ち上がり、上着を羽織ると玄関から飛び出した。

勇一郎は無言で冬悟の皿からおかずを一つつまみ食った。

「ばーか。」

独り言はだれもいないうたかた荘に吸い込まれる。

姫乃は学校までの通学路を走って冬悟の姿を探した。

連絡も無しにこんなに遅くなるなんて、何かあったのならどうしよう。

姫乃は走りながら、着信履歴から冬悟の電話番号を呼び出すと、冬悟の携帯に電話をかけた。

一回、二回、三回とコール音が響く。

冬悟は出ない。

留守番電話に繋がり、一度電話を切るともう一度掛け直す。

二、三回掛け直した後、やっとコール音が途切れた。

繋がった!

「あ、冬悟さん!?今どこ?今日遅いねどうしたの?」

姫乃は走っていた足を止めるとやや早口で問いかける。

返事が遅い。

『…ひめのん。』

やっと受話器ごしに聞こえてきた声が思っていたよりずっと重く、姫乃の心臓がどきりと動く。

「どうかしたの?大丈夫?」

もしかしたらという気持ちが一気に膨らんで不安という形になる。

「ね、大丈夫?今どこ?」

『ひめのん。ゴメン。』

何がゴメンなのか訳がわからない。

「何?どうしたの?」

あの時、エージが現れなかったら確かに自分は江村を止めに入っていた。

けれどあの場にエージが現れて姫乃を救い出した。

その瞬間、一瞬、ホッとしてしまった自分がいた。

ああ助かった。

そんな事を一瞬でも考えてしまった自分がどうしてもどうしても許せなくて教室から動く事が出来なかった。

姫乃とエージが去った後も、江村が首を振って全てを諦め去った後も。

冬悟だけはその場から動けなかった。

窓際の壁に座り込み、丸くなってジッとしていた。

自己嫌悪で潰れそうになっている時、机の上で携帯が鳴った。

メールが何度か届いている事は知っていた。

けれど蹲ったままその場を動けなかった。

今何時だ?

繰り返されるコール音。

多分かけてきているのは姫乃。

ゆっくりと起き上がると、チカチカと赤く点滅しながら冬悟を呼ぶ携帯を手に取った。

姫乃は心配そうに声をかけてきた。

オレ、ひめのん裏切った。一瞬裏切った。ゴメン。

喉元まで出ている言葉が震えて言えない。

携帯を持つ手が震えた。

『ねえ、今どこ?お願い、心配なんだよ。』

電話越しに聞こえてくる姫乃の声が泣きそうで。

「ひめのん…。」

ああ、何か心配かけちゃったみたいだ。

ホント、駄目だオレは。

「あのね、冬悟さん。」

『…うん。』

「今日ね、ちょっと不安な事があってね、ちょっと、辛い事があってね。」

『…うん。』

携帯を握ったままその場で座り込む姫乃。

耳を必要以上に携帯にくっつけて冬悟の声を必死で聞く。

この携帯から聞こえて来る声だけが頼りなのに。

遠いよ、遠いよ。

『今も凄く不安だよ。どうして返事くれなかったの?どうして電話に出てくれなかったの?側に居てよ。怖いよ。』

冬悟が床に手をつく。

『何があったの?どうして今、側に居てくれないの?一杯聞いて欲しい事あるの。ねえ、今どこにいるの?…冬悟さん!』

反動をつけて立ち上がる。

姫乃の声は震えていて、「きっと泣いている。」

ああ、馬鹿だ馬鹿だ。

本当にオレは馬鹿だ。

「姫乃、今どこ?すぐ行く。」

姫乃を裏切った事に潰れるなら勝手に潰れればいい。

ただし、姫乃を巻き込むな!!

もう一人自分が居たら地平線の向こう側まで自分を殴り飛ばしている事だろう。

冬悟は校舎を走り抜ける。

靴を履き替え、自転車の鍵を開けると猛ダッシュ。

だから、怖い事から逃げようとする癖、もうやめろ!

自分の事だけ考えるの、もうやめろ!

今一番しなきゃならない事があっただろうが!!

ビュウビュウと冷たい風が体を打つ。

はっはっ、と白い息を吐いて自転車を漕ぐ。

姫乃も立ち上がりいつもの通学路を走り出す。

公園を越え、坂道を抜けたところで二人が一瞬すれ違う。

冬悟はギギギと音を立てて急ブレーキをかけると、自転車を乗り捨て姫乃の元へ走る。

姫乃が冬悟に飛びつき、冬悟はバランスを崩してしりもちをつく。

姫乃は泣きながら頭を胸にこすり付ける。

「ごめん。」

抱きしめて、長いため息をつく。

「冬悟さん。どうかしたの?私ね、私。」

「知ってる。」

「え?」

「上から見てた。放課後。全部。」

「…それで、怒ってたの?」

少し、おずおずと冬悟の目を覗き込む姫乃。

「違う違う。」

ああそっちに取ったか。

冬悟は慌てて首を振る。

一度大きく呼吸して、全てを話した。

「…それで、ずっと教室にいたの?」

「うん。」

「なかなか帰って来ないで、メールも返事しないで、電話もなかなか出なくて?」

「…うん。」

「馬鹿。」

「うん。馬鹿だ。ごめん。」

「馬鹿。馬鹿。」

すがりつく姫乃の小さな背中が震えて、それを冬悟は優しく撫でる。

ごめんなごめんな。

こんな不安な時に一人にして。

「ひめのん、帰ろうか。うたかた荘に。」

頷く姫乃の手を引いて冬悟は歩き出す。

倒れた自転車を起こして、後ろに姫乃を乗せて。

ハンドルをしっかりと握り、ペダルを踏みつける。

ガタガタと自転車が揺れ、冬悟にしっかりとしがみつく姫乃。

「…あのね、私は気にしないからね。元々、あんな所に行く私が馬鹿なんだから。」

ちらりとだけ振り向いて笑いかける冬悟。

姫乃を一瞬でも裏切った事、たとえ姫乃が許しても自分はまだ許せない。

背中を暖める体温に、冬悟は「もう二度と」を誓う。





うたかた荘に戻ると勇一郎が新聞を読みながら眠っていた。

「あ〜、しまった!ごめんなさい勇一郎さん。先に食べててって言えばよかった〜!」

んごごとイビキでそれに応える勇一郎。

「取り合えずあっため直すか。ひめのん、皿これでいい?」

「うん…。あれ?」

メインのから揚げが盛り付けられた皿を目にして姫乃が止まる。

「どした?ひめのん。」

「…冬悟さんのから揚げが、減ってる。」

「…クソ親父ー!!!!」

冬悟のとび蹴りが勇一郎の頭に炸裂する。

「うぼお!?何だァ!?」

「何だじゃねーよっ!オレのから揚げ返せ!!」

「から揚げ?夕食の時間までに帰ってこない奴のから揚げなんて知らん!」

ぷいっとそっぽ向く勇一郎。

「テメエ…そのグラサン叩き割ってやろうか。」

わなわなと手を振るわせる冬悟。

「ひめの〜ん。冬悟が隠居した老人に暴力を振るうよ。何か言ってやってくれよ。」

姫乃の陰に隠れる勇一郎。

「あ、あの、勇一郎さん。」

勇一郎の手がおもむろに姫乃の肩に回される。

「あのなあ!!さりげなく姫乃の肩とか腰とか、触ってんじゃねえ!このドエロ!!」

勇一郎に勢い良く手を伸ばした冬悟だが、次の瞬間その腕を掴まれ宙を舞う。

「どうああ!!??」

「フン。独占欲振りかざそうなんざ10年早ぇ。」

「ちょっと、ご飯の周りでバタバタしないで下さいっ!!埃が入っちゃうでしょ!?」

『すみません!!』

重なる声。

苦い顔を合わせる冬悟と勇一郎。

姫乃が笑い出す。

一日の最後の最後。

笑顔で終われた。

「親父。」

「なんだあ?」

「…今日は勘弁してやるけど、次やったら本気で隠居させてやるからな。」

「できるもんならいつでもどうぞ〜。」

にやりと不敵に笑う勇一郎。

へっ、と笑い返す冬悟。

「もう。仲いいんだか悪いんだか、わかんないんだから。」

姫乃が呆れた顔で椅子に座った。


あとがき
な、長っ…!!!!思っていたより長期戦になりました。
だいぶエージが侵食してきていますがお題の通りになったでしょうか?
ちょっと切ない教師明姫です!!
そしてこちらはリク下さった一架さんへ!
ありがとうございました〜!!
2007.01.30

Back