深層回転
共同リビングで昼寝をしていた私は、気が付くと全く知らない場所にいた。
夢って事はすぐ解った。だってあんまりにも現実感がないから。
見渡す限りの真っ白な砂漠。
他には何にもない。
私はそこを裸足で歩いている。
サクサクと、
砂を踏みしめる音だけが聞こえた。
風の音すらしない。
「…嫌な夢。」
夢の中で一人で呟く。
一人ぼっちは好きじゃない。
誰かどこかにいないかぁと思って、私は皆を探しだした。
自分の夢だもん。きっとどこかに皆がいるはず。
そう思って、夢の中の砂漠を歩いた。
それから、物凄い距離を歩いたと思う。私はその世界のあんまりの広さに疲れてしまった。
「もー駄目。歩けない。」
私はその場で座り込む。
もう無理。だってこんなに歩いたのに、何にもないんだもん。
はあ、とため息をつき、夢の中で目を閉じる。
このまま寝てしまおう。
目が覚めたらきっとうたかた荘のリビングだから…。
そんな事を考えていたら、突然足元が砂に埋もれ始めた。
「え…っ?」
体が徐々に砂に埋もれていく。
急いで立ち上がったけど、すでに太ももから腰の辺りまで砂に埋もれていて身動きが取れない。
「だ、誰か!」
夢だとわかっているのに、今起こっている事はやけにリアルに感じた。
砂の感触、落ちていく感覚、全部本当に起こっている事みたい。
「わ、ああ。」
ついに私は頭まで砂の中に埋もれてしまった。
「沈んじゃう。」
そう思った時、砂からまだかろうじて出ていた手を、誰かが掴んでくれた。
大きな手。誰のものかは解らない。
ぐいっと引っ張られる。
だけど、その人の足場も沈んでいってるみたいで、落ちていくのは止まらない。
「ねえ、手を離して!あなたも落ちちゃうよ!?」
だけど、その人は私の手を離さない。
「もういいよ、ありがとう。もういいよ。」
だんだん泣きたくなってきた。
これは私の夢なのに、どうしてこんなに思うとおりにならないんだろう。
夢の中の砂の中は、苦しくはないけれどただ真っ暗だった。
その中で繋がれた手だけがどこか切り離された空間みたいに感じる。
大きくて、ごつごつしていて…。
…私は、この手を知っている!
突然、私はそう思った。
そう思ったとういうか、そう解った。
この手は、きっと私を離す事はない。
これは願望とか、自惚れとか信用とかじゃなくて、はっきりと「解る」事。
本当はずっと前から知ってたんだ。
この人は絶対に私の手を離さない。
だったら、私はそれにちゃんと応えないといけない。
甘えてばかりじゃいられないから、私だって何かしなきゃ!
繋がれている手を、もう片方の手でしっかりと握る。
足を伸ばしてどこかに地面があるんだって自分に言い聞かせる。
ひめのん、ひめのん。
声が聞こえる。
ひめのん。
絶対、助かろう。
「姫乃。」
はっと目を覚ます。
ここは、うたかた荘の共同リビング。
ソファーで横になっている私の周りをぐるっと皆が取り囲んで、顔を覗きこんでいる。
「お、目ぇ覚ましたぞ!」
「え、あれ…?」
「ひめのー!大丈夫!?」
アズミちゃん。
「ひめのん、どっか悪い?痛いとこある?」
ガクリン。
「ねーちゃん、ずっとうなされてたぞ。」
ツキタケ君。
「心配かけさせんなよ、びびっただろ?」
エージ君。
「ひめのん、大丈夫?」
…明神さん。
「うん。ごめんね、変な夢見ちゃって…。」
「びっくりしたぞー。ひめのん寝てると思ったらいきなりうんうん言い出して、そうかと思ったら手ぇバタバタさせて。」
夢の中では必死だったけど、寝ている自分を想像するとかなり恥ずかしい。
顔が熱くなったてきて私は思わず俯く。
「じゃあもういいだろう、明神、早く!今すぐマイスゥイートの手を離せ!」
手?
言われて自分の手を見ると、明神さんがしっかりと私の手を握っている。
「うおおお!!忘れてたっ!!」
明神さんがずざざ!っと凄い勢いで跳び退いて私から離れていく。
「ご、ごめんなひめのん。苦しそうだったから、つい。」
「いえ、心配かけてゴメンナサイ。」
もう大丈夫と皆に言って、私は自分の部屋に戻った。
ふー、とため息をついて部屋に転がる。
さっきまで寝てたんだけど、夢のせいで疲れてまた眠くなってきた。
「でも、わかっちゃった。」
砂の海の底で、私の手を握り続けてくれた人と、その人を想う私の事。
しっかり握られていたからだと思うけど、私の手はまだ少しじんじんしている。
「よし!後で管理人室に行こう!」
私は決めた。
全部伝えよう。
どんな顔をするだろう?きっとびっくりするだろうな。
でも私は解ってる。
最後にあなたは首を縦にふるんだって。
あとがき
少し解り難いですが、夢の中で「あ、私たち両思いだ」と悟りを開くひめのん(笑)
夢は自分の深層心理を表しているとか聞くのでこういう話になりました。
お題四つ目。初めの一つ以外は順番に進んでいます。
もっとバラバラで行く予定だったのに…。
2006.10.10