サンタ・サンタ・サンタ

クリスマスは嫌いだった。

ガキの頃、両親が死んだ年からサンタは来なくなった。

サンタの正体を知ると同時に、毎年クリスマスになると自分は一人なのだと幼い頭で確認しなけりゃならなかった。

「明神」と会って、二年と二ヶ月。

少しだけサンタは帰って来たけれど、また消えた。





そして今年のクリスマス。

昼間起抜けにアズミに捕まって絵本を読む明神。

「ねえ、アズミのとこにもサンタさん、来るかなあ?」

「いい子にしてたらな?アズミは今年一年いい子だったか〜?」

「うん!」

大きく頷くアズミ。

じゃあ、きっと来るよ、と答えて明神は絵本の続きを読み出した。

昼をまわると明神は姫乃に頼まれたケーキを買いに行く。

こういう季節のイベントは一人だとどうでも良くなってしまうので、姫乃のお陰で今年はクリスマスらしいクリスマスを送れそうだ。

学校から帰って来た姫乃は、両手に一杯買い物袋を下げていた。

「皆も食べれたらいいんだけど。」

そう言いながら用意した鶏肉とスープ。

クリスマスのご馳走。

こんなの久々に食べた。

食後にケーキも忘れない。

小さなツリーを飾り付けてチカチカ光るランプをぼんやりと眺める。

そういえばこのツリーは昔「明神」が買ってきた物だと思い出す。

クリスマスは、嫌いだった。

散々騒いで皆が寝静まった後、打ち合わせ通りに姫乃がリビングに現れる。

数日前、アズミやエージ達に何かプレゼントをしようと姫乃が言い出し、今年は二人でサンタをする事になっていた。

「準備できたよ、明神さん。」

声をややおとして話す姫乃。

「じゃあ、行くか!サンタ出動!」

明神と姫乃は、足音を殺しながらアズミの寝る部屋へと向かう。

そっとドアを開け、中に入ると眠るアズミの近くに絵本を置く。

「メリークリスマス。」

呟いて、そろりと部屋を抜け出す二人。

ドアを閉じると「ふー」と大きなため息をついた。

「何だかドキドキするね。やっぱり明神さんにもお願いして良かった〜。」

「いや、ひめのんが言い出してくれて良かったよ。アズミ明日大喜びだな。」

会話をしながら、次はエージの部屋。

そっとドアを開けると姫乃が見張っている間に明神が壁にエージが好きな野球選手のポスターを貼り付ける。

途中、エージが寝返りをうち、二人は息を止める。

「う…ん。」

そのままごろりと横になり眠ったので、そのままそろそろと部屋から出た。

「びっくりしたー…!急に動くんだもん!」

「シー!ひめのん声大きい!」

「わ、とと。」

姫乃は口を押さえてウンと頷く。

声を殺して笑い合う。

次はツキタケとガクが眠る部屋。

そっと部屋に入ると、ツキタケの枕元に車の模型を置く明神。

ちらりと横に目をやると、姫乃がガクの頭を撫でている。

「!!!!!」

「あ、だってさ、ガクリンにも何かって思ったんだけど…大人だしプレゼントもどうしていいかわかんなくって。せめてね。」

ゴニョゴニョと言うと、ガクが動いた気がして二人で大急ぎで部屋を出た。

リビングに戻って一息。

「…別にガクには何もいらねーのに。」

何だか面白くなくて拗ねる明神。

撫でると言っても触れないのだから拗ねても仕方ないのだけれど、姫乃がガクに対してそうする事がつまらない。

「だってさ、せっかくサンタなんだし。でもおもしろかった!ドキドキしたね!」

「…うん、そうだな。サンタになるのも、悪くないな。」

オレのサンタ達も、こんな風にしていたのだろうか。

サンタが来ないのならば、サンタになればいい。

簡単な事だったけれど、なかなか思いつかなかった。

姫乃が言い出すまで。

「ひめのんのお陰で、今年は楽しかった。」

「大げさだよ。明神さん。」

嬉しそうに笑う姫乃。

本当に、大げさなんかじゃないんだよ。

「じゃあ、任務完了!お疲れ様です!」

姫乃はびしっと敬礼すると、二階にあがって行った。

その背中を見送ると、明神は管理人室に入り布団を敷いた。






ドアを閉じると、姫乃は耳をすませて階下の様子を伺った。

明神が管理人室に戻るのを確認すると、タンスの中に隠しておいたプレゼントを引っ張り出す。

そろそろと階段を降りると、大きなイビキが聞こえてくる。

管理人室のドアをそっと開けると、明神が早くも眠りについていた。

「…メリークリスマス。お邪魔します。」

そっと明神に近づくと、プレゼントの包みを用意した赤いリボンで明神の腕に括り付ける。

これなら明日どれだけ、どこまで転がって行っても目が覚めたら手元にプレゼントがある状態が作れる。

「我ながら、いい案だよね。」

明神の横顔を眺めて、にっこりと笑う姫乃。

「いつもありがとう。明神さん、いっつも誰かの為に頑張ってるから。」

たまには、私から。

ガクにした様に明神の頭に手を伸ばす姫乃。

一度、触ってみたかった。

少し硬くて、性格通り頑固な髪。

月の光に輝いて、とても綺麗だと姫乃は思う。

くすぐったいのか明神がもぞもぞと動いたので、慌てて姫乃は手を引っ込める。

部屋を出て自室に戻り、眠りについた。

明神がうっすらと目を開けた事には気が付かなかった。






目が覚めた姫乃は、目を擦ろうとしてはたと止まる。

右手の薬指に違和感がある。

「…あ!」

いつの間にか、姫乃の指にビーズで作られた愛らしい指輪がはめられている。

昨日は明神が眠るのを確認して、それから部屋に戻り…。

慌てて、カーディガンを掴むとそれを羽織りながら階段を降りる。

「明神さん…!これ…。」

管理人室を覗くと、明神が昨日あげたセーターをさっそく着込んで眠っている。

「…ちぇ。」

出し抜いたと思っていたのに、出し抜かれていた。

明神のすぐ側にぺたりと座り、手を伸ばして窓から入る光にキラキラと指輪をかざす。

「綺麗。」

そうこうしているうちに、うたかた荘のあちこちから「うおお!」とか「わあ!」とか「ああー!!」等歓声が聞こえてくる。

姫乃は明神を起こさない様に部屋をでた。

「おはよう、ひめのん。」

部屋を出るとすぐガクがいた。

ガクはそっと手を伸ばすと、触れられはしない姫乃の頭を撫でた。

実際にはすり抜けているのだけれども。

「…おはよう、ガクリン。」

満足そうに去るガクを見送る姫乃。

こちらにも、出し抜かれた?

「…来年こそ、立派なサンタになるんだから!」

来年の雪辱戦を胸に誓う姫乃。

その姫乃の声を聞いて、布団の中のサンタが笑った。


あとがき
クリスマスネタです。
明神はこういう季節のイベントには疎そう…とか思って書きました。
絵本はこれから姫乃や明神が変わりばんこに読んであげたらいいなあなんて思っています。
2006.12.23

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