「男だったら結婚してるよ」

私と姫乃の間に、ごく普通の毎日が戻ってきた。

朝起きて、制服着て学校行って、授業受けて、放課後は一緒に喋って、時々買い物なんかにも行ったりして。

それで家に帰ってご飯食べて寝て、また学校。

同じ事の繰り返しの様に思われる毎日だけど、楽しけりゃ繰り返しだって何だっていいと思う。

最近の私の楽しみは、毎日姫乃が作ってくる弁当のオカズ。

…って言ったらどんだけ卑しい奴なんだって思われそうだけど、あの日電話で約束したんだからしっかり守ってもらおうと思う。

あんだけ心配させたんだから、口約束にはさせんからな。

今日も私達は、屋上へと向かう。

昼休みはここに来て喋るのが、私達の恒例行事になっていた。

「今日の一品」はアスパラの豚肉巻き。

「じゃ頂きまっす!」

「ハイどうぞ。」

私は差し出された弁当箱から一つ、狙った獲物を素手で引っ張り出すと、それを口に放り込んだ。

う〜ん、絶品。

もぐもぐと口を動かしながら姫乃を見ると、何だか嬉しそうに笑ってる。

「…なんであんたが笑うの?」

「だって、あんまり美味しそうに食べてくれるんだもん。」

うお、笑顔が眩しい。

ちょっとコレ凄いなあと思いながら、私は何となく恥かしくて自分の弁当箱に目を移す。

明神さんは毎日こうやって姫乃オーラを浴びている訳だ。

あの幸せ者め。

明神さんの幸せそうな(ちょっと憎らしい)笑顔を想像しながら、私は思いついた事を思いついたまま口にした。

「あーあ。私が男だったら、あんたと結婚してるよ。」

変な意味じゃなくて!!そこ重要。

女として憧れる女。

こうなりたいな、っていうのと、見ていてああいいなっていうのと。

「そんなの、私が男だったらエッちゃんと結婚してる!」

何を張り合ったか姫乃が息巻いて言ってきた。

「はいはい。ありがとね。」

「あ、何だその相手にしてない感じ。酷いなあ。」

「あのね。私みたいな男みたいな女、姫乃苦労するよ〜。それに姫乃は明神さん一辺倒じゃん。何か現実味ないんだよね。」

そう言いながら私は自分の弁当を平らげる。

姫乃は不満そーにこっちを見ている。

「そんな事ないのに。エッちゃん私よりずっと女らしいよ?」

「はいはい。あんたは幸せになるんだよ?」

「そんなの、エッちゃんだって。」

「私はいーの。何とかなるから。っていうか、まあ何とかするでしょ。一人でも平気だし。」

「馬鹿。」

プイっと、そっぽを向いてしまう。

ああ、これちょっと本気で怒ったか?

「…姫乃、怒った?」

「別に。」

「あんたは。人の事で怒るんだよね…。」

いつもいつも、姫乃は私の事で怒ってくれる。

どうでもいいやって思っていたら、それじゃ寂しいでしょうって。

「人の事じゃないよ。エッちゃんは私の友達でしょ?その友達が、一人でもいいって言ったら、私の事だってどうでもいいって事じゃない。」

ああ、以外な意見だ。

「そういう意味じゃないんだけど…ゴメン。」

私は素直に謝った。

何というか、私に親友という奴が必要だとしたら、それは姫乃以外はありえんなと、ちょっと自覚する。

「あー、私女で良かった!」

食べ終わった弁当箱を片付けて、気持ちのいい空に向かって大きく伸びをした。

ゴキゴキと肩が鳴る。

うおお、気持ちいい。

「私も、エッちゃんと友達で良かった。」

姫乃も立ち上がりながら、にこにこ笑顔でそう言った。

本当にありがたい。

「男だったら、奴には勝てないからね。」

「ん?」

ぼそっと呟いた言葉は姫乃には届かなかったけれど、それでいい。

勝てない勝負するよりは、今のまんまが丁度いいでしょ?

パンパン、とスカートを叩いて。

「ひめのー。教室戻るか。」

「はーい。」

私達は話しながら階段を降りて行く。

この当たり前の毎日が、くすぐったくて大好きだ。

卒業までは後二年。

たとえばクラスが分かれても、進路が分かれても、この友情は続けてやると私は心に誓う。

明神さんがそれなりに頑張ってくれてるのか、最近は無断欠席も無くなった。

何でもない楽しい毎日が、一日、一日と流れていく。


あとがき
エッちゃんは女として姫乃に惚れてたらいいよ!という話でした。
後一話でこのシリーズも終わりです。
207.10.01

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