教えて、君の言葉で

それは言われてみればそうだったのだが、あまり深く考えないようにしていた。
だけど他人にそう言われてしまえばそうとしか思えなくなってしまって、だんだんとより悪い方へ悪い方へと考えが流れていってしまう。

だったら本人に確かめたらいい。

元々、思い立ったらな性格の姫乃は一大決心をして自宅であるうたかた荘へと足を運んだ。

うたかた荘にたどり着く間は頭の中に学校の友人達の言葉が鳴り響いていた。

そうだよね。絶対おかしい!明神さんが悪いんだもん!

だけど、うたかた荘の看板が見えたらそのイライラする様な、悶々とした考えはどんどん萎んでいく。

・・・私の思いすごしかも。

皆と話をしてたから盛り上がって勢いでこんな・・・。

ふるふると首をふって背筋をシャンと伸ばす。

ううん。ちゃんと聞くんだ。何でって。

「ただいま。」

玄関を開けて中に入る。

「おかえり。」

と明神。いつもの挨拶。

見上げて顔を見る。目を見つめる。

「ん?どした?何かついてる?」

いつもの軽い感じの明神。また揺らいでくる気持ち。

「なんでも・・・。」

「そう?」

逃げる様に視線を外してそそくさと自分の部屋へ向かう。

階段を上っていると途中で声をかけられる。

「何かあった?」

どきりとする。自分でわかる程確かに今の自分は変だ。

だけどこんな時はほおっておいて欲しいのが本音。

「・・・なんでもないです。」

「何でもない訳ないだろ?・・・学校で何かあった?」

何でもお見通し。だんだん帰宅途中にあったイライラが復活してくる。

「何でもないです!」

「ひめのん。」

思わず怒鳴ってしまったけれど、返ってきた声はとても優しい。

「ひめのん、どした?オレじゃ言えない?」

違います。そんな困った顔をしないで。明神さんが悪い訳じゃなくって、私が勝手にこんな風になってるだけだから。

言いたい事は沢山あるけど、何も口から出てこない。

自分が嫌になる。

「・・・ごめんなさい。」

やっと搾り出した言葉が謝罪。

「何で謝るの?」

「私が変だから。」

「変じゃないよ。」

「変です。」

「変じゃない。」

「・・・。」

暫くの沈黙。

じっと我慢するつもりだった。このままやり過ごそうと考えていた。

明神が諦めて管理人室に戻っていったらそれで終わり。夕飯の時には何もなかったみたいに振舞おう。

「あのなひめのん。オレしつこいから、気になったらとことん気にするぞ。後、言いたくないんだったら別に言わなくてもいいけど、辛いなら一緒にいよう。何にも出来ないけどさ。」

ああ、駄目。

言わないでいよう、そう思っていたけどその言葉で気持ちがあふれ出してしまう。

こんなに優しい言葉を今はかけて欲しくなんかないのに。

じわじわと、何かが喉の辺りまでのぼってくる。

言葉と、涙が同時に溢れ出てくる。

「・・・あのねっ!」

学校で友人と話をした大好きな人の話。

自分はとても好きだけど、多分、彼の方は妹?家族みたいに接してくれる。

時々、抱きついてきたり、かわいいと言ったり。でもこちらが踏み込むとかわされる。

だんだんそれが苦しくなってきているというのに気付いているのかいないのか。

たまにわかっててわざとやってるのかと思う時すらある。

友人達に背中を押されてここまで帰ってきたこと。だけど確証も自信もないし、結局言い出せなくなってしまった事。

全部勢いでぶちまけた。

涙もぽろぽろ落ちてくる。

情けない情けない。こんな自分は初めてだ。こんな自分は知らない。わからない。

「私はね!ずっと前から好きになっちゃってたよ!?」

「ひめのん。」

「だからね、」

教えて欲しい。

あなたの言葉で。


あとがき
お題五つ制覇です。
甘いー。少女漫画の様なひめのんです。
明神の答えはもちろん「そうなの!やったー!オレも!!」
みたいな感じになって、ひめのんはがくーっっと肩を落とすのです。
私の気苦労って一体・・・。
この明神はひめのんが高校卒業するまでは待とう!と決心したのはいいけどそんなに自分をコントロールできていない感じです。
駄目な大人・・・。

2006.10.03

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