狼少年とサンタクロース
まさかそんなと思っていても、もし本当だったら困ると思う事がある。
そんな事、本当なら姫乃が言うだろうと言ってみたけれど、姫乃が物を催促したりすると思うか?と言われた。
いや、昨日だってオレの事騙しただろうもう騙されないぞと言ってみたけれど、オマエがそう言うならまあじゃあいいんじゃねえ?と言われまた自信を無くす。
何より他に聞く相手がいないのがいけない。
そしてそれを調べる術を持っていないのもいけない。
半分は嘘だろうと思っているのだ。
だけど嘘じゃなかったら困るのだ。
狼少年の末路を知ってるか?と言ってみたらあっけらかんと羊、食われるんだろ?と答えてきた。
明神は、エージを信じた。
いや、信じてはいない。
裏の裏があるかもしれない事が恐ろしかっただけだ。
14日の深夜、もう日付も変わろうとしている頃。
明神は足音を消して、ついでに気配を消して姫乃の部屋に侵入した。
廊下の光が部屋に漏れ、慌てて扉を閉める。
息を殺す。
そ〜っと眠る姫乃に近づくと、枕元にキャンディの入った袋を置く。
…絶対、嘘だと思う。
いや、嘘だろう。
これはサンタの仕事だ決してホワイトデーで行うべき行為ではない。
わかっている、嘘だ。
嘘…だよな?
嘘だったら朝起きたとき姫乃は枕元に置かれたキャンディーの意味がわからず首をかしげるだろう。
そして明日の朝、大笑いされるだろう。
けど、まあないと思うけれど嘘じゃなかったら。
夜中眠れなくて、夕方になって起きてきた明神にエージが言った。
「本命の相手のお返しって、プレゼントと別に相手が寝てる間に枕元にお菓子をあげるのが最近のマナーらしいぞ。」
マナーって何だよ!!
これしないとお返しにならないって?
どういう事だ!ある訳ねえ!!
そう言いながら近所のスーパーへ足を運び、姫乃が学校から帰る前にキャンディを買い込んだ。
そして今、それを姫乃の枕元に置いている。
明日姫乃は何て言うだろう。
馬鹿にされるだろうか。
「…あ。」
思わず声が漏れてしまった。
慌てて口を押さえる。
姫乃は、眠っている。
ホッとした。
嘘も本当もどうでも良くなって、明神は部屋から出る。
顔がにやける。
嬉しかった。
眠る姫乃の指に光る指輪。
肌身離さず着けてくれている。
その時、壁からエージがにゅっと「生え」た。
「どうだった?明神。ばれなかったか?」
「おう。バッチリ。」
「…やけに機嫌いいな。気持ち悪い。」
「いや、だってさ、エージ。ゆび…。」
「あー!!それ以上はいい聞きたくねえっ!!」
「いや聞けよ。ひめのんオレがあげた指輪してくれてんのよスッゲー嬉しい。寝顔も可愛いし…って逃げんな。」
壁に半分めり込んだエージの頭をがっしと掴む。
「離せよ明神!オレはオマエのノロケなんざ聞きたくねえんだよ。」
「まあ聞けよ。己が蒔いた種だ。後悔するがいい。…でさ。多分あれ、今日学校でも着けてたと思うんだよな。うん。でもほら、学校じゃ目立つから、やっぱポケットとかに入れてんのかな。でもどっちにしろ持ち歩いてたと思うね、オレは。ああいうとこも可愛いんだよな、ひめのんは。女の子って感じだよな〜。それで…」
「もう、勘弁しろよ…。」
狼少年の末路は、夜通しノロケ話を聞かされる、だった。
あとがき
ホワイトデーその後。
滑り込み無理矢理セーフという事にします。
2007.03.15