にゅーわーるど
「で、相談って?」
大体予想はついてるけど、という前置きと共にフーが口を開いた。
そう言われ、相談をしたいとフーを呼び出した本人、マリーは顔を赤らめながらモジモジと俯いた。
「わ、わかってるんだったら、そんな怒った顔しないでよフーちゃん」
「別に怒ってないけど、ちょっとムカつくだけで」
「怒んないでよぉ」
「だから怒ってないって」
困った顔で今にも泣き出してしまいそうなマリーを見て、フーはため息一つ吐いて自分を落ち着ける。
「おばあさまから明日アゲハ達がこっちの世界にまたやって来るって聞いてから、あんたソワソワしっぱなしだもん。どーせそれ絡みの事でしょ?」
ずばり言うと、マリーは赤くなっていた顔を更にかああと赤くした。
「そ、そうだけどっ」
「相談って言われても、アタシ恋愛相談なんてやった事ないからね」
「それでもいいの!」
それまで椅子に座っていたマリーがガバと立ち上がり、フーの手をしっかりと握り締めた。
ふわりとマリーの髪が揺れ、大きな潤んだ目がフーにすがる。
ながれた髪を「ああ綺麗」なんて考える間も無く、マリーは早口で色んな事をまくしたてた。
「あのねっ、あのねっ。前アゲハさん達に本当に久々に会えて、前回は本当にそれが嬉しくて嬉しくてそればっかりだったんだけど、ほら、雨宮さん……一緒に来て、一緒に帰ったでしょ?
あの二人で行っちゃう背中がね、本当に寂しかったの。ああ、二人は信頼し合ってるんだろうなあって、凄く思えて。こっちに来てからもずっと二人、一緒だったでしょ?
根の案内も本当は二人で全部見て回って、もっと色んな話もしたかったんだけどそうもいかなかったし。それでね、今回はもっと、アゲハさんに積極的にいきたいなって、そう思ったの。ねえフーちゃん聞いてる?」
「ゴメン半分くらい聞いてない」
「もー!!!」
「つまり、雨宮からアゲハをぶん盗りたいって事でしょ?」
ちらりと、覗き込む視線と共にフーがその言葉を発すると、マリーは慌てて首と両手を激しく横に振った。
「そんなっ! とっ盗るとかそんなんじゃないよっ。気持ちをちゃんと伝えたいなあって……」
「で、あわよくばアゲハにも好きって言ってもらいたいんでしょ?」
そう言われ、マリーは一瞬「好きだ」と言ってくれるアゲハを想像し、両手で顔を押さえてうずくまった。
ひゃああとよくわからない悲鳴をあげるマリーに、フーは苦々しげな視線を向ける。
何であんな奴が好きなんだろうと心にならない声を発し、もう一度ため息をついてマリーと視線を合わせる為にぺたりと座り、その両肩に手を置いた。
「ね、マリー。アゲハと両想いになろうと思ったら、やっぱり雨宮は恋敵になる訳よ。雨宮がいい奴か悪い奴かとか、好きか嫌いかとかは全然関係なくね」
言い聞かせる様に話し出すと、マリーが顔を上げる。
そしてフーの言葉にいちいち首を縦に振り頷き、相槌を打つ。
「だったら、やっぱり雨宮からアゲハを取ってやる!
って気合いが無いといけないし、同時にアゲハをこっちに振り向かせなきゃなんないわ」
「うん……」
「で、アゲハだけど。雨宮を見るからに……きっとツンデレって奴に弱いタイプなのよきっと」
「つん……でれ?」
フーの言葉にマリーがきょとんと首を傾けた。
それって何と聞こうとするマリーの言葉を遮りマリーは立ち上がると、すうと息を吸った。
「ツンデレって奴はアレよ。普段ツンツンしてるのに、時々見せる可愛らしい仕草や言葉にぐらっと来ちゃうってアレよ!
普段はキツイ奴なのに、オレにだけ見せる優しい顔が……!!
って馬鹿な男が騙されるって寸法よ!」
ああ、とマリーが手を合わせた。
「フーちゃんの事だね」
さらりとそう言ったマリーに、フーは激しく動揺し、声を荒げた。
「はっ、はあああ!? アタシのどこがツンデレよ!!
全然デレたりしないし、大体ツンじゃないしアタシ!!
今雨宮の話してたんでしょ!?」
「ごっごめん、フーちゃん!」
顔を真っ赤にして否定するフーに、マリーは「やっぱりそうだ」と思ったが口には出さなかった。
「で!! あんたは普段優等生でぜーんぶデレばっかだから、たまにツンなトコ見せてアゲハに「あれ?
いつも可愛いマリーが今日はなんだか違うな?
オレ、何かしたかな?」って思わせるのよ!!
そうやってちょっと冷たくされたら鈍感アゲハもマリーの事が気になり出すにきまってんだから。敵に学べ!!
名づけて、デレツン作戦!!」
拳を握り力強く吼えたフーに、マリーは拍手をしてそれを称える。
「いや、あんたがやるんだからね?」
「えっ、ええええええ!?」
こうして、マリーの新しい扉を開く特訓が始まった。
あとがき
続き……ます。
そんなに長い話ではないので書き切りたかったのですが、タイムアウトでした。
フーちゃんはマリーに身長抜かれた時ショックだったろうな〜と思うのです。
2010.04.16
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