何もない退屈な日曜日

明日は何の予定も入っていない日曜日だから、最悪昼まで寝てしまっていても構わない。

学校は休み、予定も特になし。

ならばと寝る前に少しだけ、トランスの訓練をする事にした。

その時点で十一時をまわったところ、少し眠たくなってきたけれどまだ大丈夫。

頭痛が始まるまでと自分の中でルールを決めると訓練を開始する。

暫く時間を忘れて訓練に没頭し、流石に疲れてきたと感じたのが午前一時。

手を止め、はあと深いため息をつくとベッドに倒れ込んだ。

フカフカのベッドの上で薄目を開けて、何もせずに自分の拳をぼんやりと眺める。

何も考えず、何も思わず十分間程うつろうつろする状態のままですごし、ある程度意識が回復したところでえいと体を起こし風呂場に向かう。

さっとシャワーを浴びてパジャマに着替え、買ったばかりの雑誌に目を通し毛布にもぐりこんだのが午前二時。

桜子は部屋の電気を消し、毛布にもぐり込んで目を閉じた。







それから一時間。

眠くてたまらない筈だったのに、布団に入って目を閉じると……何故か目が冴えた。

薄く目を開けると部屋は真っ暗で何も見えなかった。

大きな窓が部屋にあるけれど、遮光カーテンがしっかりとかけてあるせいだろうか、光が差し込む隙間がないらしい。

コチコチと時計の音がやけに耳に絡みつく。

疲れているから早く眠ってしまいたいけれど。

「……まあ、いいわ。明日はどうせ何もない、退屈な日曜日だもの」

呟いた声が部屋に響いた。

ドッと何かが、例えば部屋の暗闇が桜子に押し寄せた。

衝動的に桜子は枕元に置いてあった携帯を掴んだ。

何かに急かされる様に携帯を操作し、メールの受信ファイルを開いた。

携帯の時計は午前三時を示していた。

最後のメールは「夜科アゲハ:じゃあまた月曜、学校でな」だった。

送られてきた文章を消して、新しい文章を打ち込んだ。

「ねえ、明日映画に行かない?」

メールを送信し、返事を待った。

携帯の時計は午前三時二分を示していた。

暗闇の中で光っていた携帯のディスプレイが消え、部屋に暗闇が戻った。

両手で携帯をぎゅっと握り、祈る様に頭を擦りつけた。

フッと、携帯が光った。

大好きな音楽が流れた。

返信「夜科アゲハ:今何時だと思ってんだバカ! 明日ってつまり今日だよな? 何か見たい映画でもあんのか?」

返信「雨宮桜子:前に夜科が観たいって言ってた映画」

返信「夜科アゲハ:アレ興味ないって言ってなかったか? 別にいいけど。じゃあ十二時にいつもんトコで待ち合わせでいいか?」

返信「雨宮桜子:わかった」

返信「夜科アゲハ:映画終ったらどっか行くか? カラオケ行くなら前行ったとこでいいよな。割引券貰ったし」

返信「雨宮桜子:うん」

返信「夜科アゲハ:あ、それから前も言ったけど、オレん家門限あるからそれまでには帰らなきゃなんねーからヨロシク」

返信「雨宮桜子:」

返信「夜科アゲハ:おい、空メールきたぞ。寝てんのか?」

返信「夜科アゲハ:おーい、雨宮。寝てんのか?」

返信「夜科アゲハ:じゃあ明日なー。十二時だからな」







携帯を握り締めたまま、桜子は眠った。

部屋の時計はコチコチと時を刻み、遮光カーテンは朝の日差しから部屋を守った。

何からも妨げられる事がなく桜子はくうくうと眠り続け、時間は昼間の十二時を過ぎた。

「ん……」

ゴロリと寝返りをうち握ったままの携帯が手からこぼれた時、部屋に携帯の着信音が響き渡った。

「ん、んー……」

雨宮が目を覚まし、携帯を見つめた。

着信:夜科アゲハ。

「……何?」

呟きながら重い体を起こしてベッドから這い出ると、フラフラと危うい足取りで窓に近付きカーテンを開く。

パッと部屋に光が差し込んだ。

握ったままの携帯から流れたていた音がプツリと消えた。

鈍い反応で着信が途絶えた携帯を桜子が眺めていると、また直ぐ再び着信音が鳴り出した。

受話器のボタンを押し、ゆっくり耳に近づける。

「……あい」

『あい、じゃねーよ! オマエ今何時だと思ってんだ!?』

突然の怒鳴り声に眉をしかめながら、桜子は時計を見た。

時計の針は一時を指している。

「……一時」

『一時だよ!! 寝てたのか!?』

「あい」

『うおィ! 待ち合わせは十二時だろが! 今一時!! 映画の約束覚えてねーのかよ! もう昼の回始まっちまったぞ、どーすんだよ!』

「…ほに? 待ち合わせ? 映画の約束?」

「テメーが夜中急にメール送って来たんだろうが!!」

「あい。すぐ行く、あい」

通話を切ると、雨宮はぼんやりしながら身支度を始めた。

意識がはっきりしてくると、体が思ったよりだるいのがわかる。

頭も重く、何をするにもため息が出た。

それでも何となく、気持ちは前へ前へと進んでいく。

しんどいなと思いながら、鏡に映る自分を眺め……髪をいじり、一通りいじったあと諦めて髪に櫛を通した。

部屋に何枚も服を並べてどれを着ていくか悩みに悩んだ。

ショーツにキャミソールという姿でペタペタと床を歩き、とっかえひっかえ着替えて自分の姿を確認した。

前一緒に出かける時に来た服はやめておこう。

また同じの着てるって思われたら嫌だし。

この間買ったワンピースに、化粧……口紅くらいは……やめ。

張り切ってると思われちゃうかもしれないし。

何だか首元が寂しく感じる、アクセサリー……ワンピースに合うのがあったかな?

髪飾り、は、駄目。

やめよう。

髪はもう諦めたんだし、チョーカーでいいや。

……今度パーマをあててみようかな、でも似合わなかったら嫌だな。

時計を見ると、三時になっていた。

「せっかく、何もない日曜日だったのに」

三面鏡の前で呟いた。

鏡に映った顔を見ると、自然と微笑んでいる自分に気が付いた。


あとがき
ホリデイサイレン2の直前妄想です。
夜中に突然メールっていうところからむあむあと広がりましたがどうも暗くなりがちです。
アゲハの雨宮に気持ちが届きますようにっていう願いと毎日の積み重ねがこういう結果を招いていたらいいなという希望を込めて。
2009.02.09

Back