腐れ縁の友人の妹とぼく

少なくとも二日に一度、多いと二時間に一度くらいの頻度でオレと奴は喧嘩をしていたが、チカが退院してからは本当に久々に、七日と十六時間ぶりにランと喧嘩をした。

まあそれが、今までのストックを放出するが如くなかなか派手に……オレは鼻血をたれ流し奴は口を切って見た目にはそこそこ大惨事となる状態になった。

まずかったのは、チカが丁度その時間に学校から帰ってきた事だ。

戦場となった部屋はボコボコに。

オレと奴もボコボコに。

学校に復帰して新しい友人を二人連れてきていたチカは、玄関の扉を元気良く開けて……閉めた。





「チカ! チカ……ちゃん! ゴメン、悪い、今から掃除すっから……」

慌てて追いかけて引きとめる。

一年半寝ている間に肩より下に伸びた黒髪をなびかせながら、不機嫌そうな顔でチカが振り返る。

「今から片付けしたら日が暮れちゃいます。今日はこの子のアパートに行く事になったので……嵐兄さんにもそう伝えて下さい」

「この子が」ぺこりと頭を下げた。

鼻血垂れ流すオレを見ても動じないとは、なかなか根性座った子の様だ。

つられてオレも頭をさげる。

頭を下げたついでに拳で血を拭った。

顔は痛むが別に鼻が折れた訳ではなさそうだ。

「っと、何でオレが伝言しなきゃなんねーんだよ! オレだってこれからバイトなんだよ」

「顔洗わないと、お仕事も行けませんよ。ここからなら家の方が晴彦さんの家より近いし、寄って行って下さい」

「んの……!!」

「最近はあんまり喧嘩しないから安心してたのに……怪我する様な事、あんまりしないで下さいね」

そう言って差し出されるハンカチをオレは受け取る、が、花柄の可愛いハンカチを血で汚すの事に気が引けて、ハンカチを握ったまま立ち尽くす。

それを見てチカがハンカチをオレから取り上げるとぐいぐい顔を拭いてきた。

「チカちゃん、割と痛い」

「……心配、あまりかけないで下さい」

「心配ならこの一年半オレの方が何倍もした」

「ごめんなさい。でもそれとこれとは別なんです!」

ペチリとオレのほっぺたを叩くチカ。

その顔は怒った様で、本当に心配そうで今にも泣きそうで、ああ……いかんなとオレは思う。

目が覚めてからのチカは、オレと嵐がどうやって生活をしていたか、入院費はどうしていたのか、食事は家事はと色々問い詰めてきた。

それに全て答える事が出来なくて……やっとオレは自分がした事を後悔した。

そうだな。

嵐の奴は気が合いすぎて……気に食わなくて喧嘩もするが、いつかチカとオレが結婚する時には「お兄さん」になる訳だし。

「悪い。ごめん。今から帰って仲直りと……部屋も片付けてくっからチカはその……オトモダチと遊んで来る様に」

「はい」

「そっちのオトモダチ達もチカを宜しく、よろしく」

ちょっとテンション上がってきたオレは、チカの友人二人とやや強引に握手を交わす。

そうそう、チカの為にもこの二人にオレが嫌われる訳にはいかん。

好印象好印象。

二カッと笑うとオレは逆方向に走り出す。

「七時までには帰ります!」

背中にかけられた声に、背中で返事をした。

さあ、これから嵐とこ戻って……なるべく穏便に話をしよう。

さっき揉めに揉めた話も何とか解決させなきゃな。







時は遡り三十分前。

怒鳴り声が部屋に響く。

「オマエなァ、そうやってチカの事閉じ込めようとするけど、惚れた男が出来たらいつかここ出てって結婚もすんだよ! 門限もうちょっと遅くしてやれよ! 七時までって……クラブも友達と映画もデートも出来ないだろ!?」

「だから、お前がオレの妹を呼び捨てにするな。それから千架に彼氏はいない、従ってデートはありえない。あと家の事に口出しするな!! 」

「するさ、するね!」

「に、を……」

にらみ合って胸ぐら掴んで、千架が目覚めてから一週間ぶりの喧嘩。

そう、何を決める時も何をする時もこうやって一度は喧嘩をした。

理由はつまらない事だったり重たい物だったりいろいろだったけれど。

出合った当時からウマが合う反面気に入らない部分が多くて、憎くて面白くて情けない自分の分身。

「事故った事が怖いのはわかるけど……チカ……ちゃんはもう歩いて喋って、友達作ってちゃんと歳食ってくんだから」

「……わかってるよ」

「心配だったら、オレが毎日送り迎えしてやるから」

「いや、俺がする」

「……なあ、オマエってさ、チカちゃんに彼氏とか出来たらどうする?」

「埋める」

「即答かよ」

「お前は? どうする?」

「いや〜それはホラ。そんな心配ねェっつーか? ああうん、いやァ何でもないっつーか」

晴彦がへらっと笑った。

その笑顔が気に食わなかったらしい、嵐の拳が晴彦の顔面にめり込む。

とっさに晴彦も拳を突き出し……自爆上等のクロスカウンターが嵐の下あごに刺さる。

嵐の体は襖を突き破り、晴彦は机と机の上に置かれた物をなぎ倒す。

両者K.O、二人がうめき声をあげて身体を起こそうとした時、玄関の扉は開かれた。


あとがき
ずっと書きたかった晴彦千架嵐です。
まだ晴彦さんと千架ちゃんはいいお兄さん以上恋人以下で……。
嵐兄さんはびっくりするくらい兄馬鹿だといいと思います。
ちなみにコレ、拍手にするか日記の小話にするか悩んだ挙句こちらに。
続きがあったりします。
2009.03.09

Back