コイバナ

「…で、実際のところどうなんだ?」

うたかた荘の屋根の上。

ぼんやりと空を見上げるエージの隣に澪が腰掛けた。

屋根の下には明神と姫乃。

今から学校に出かける姫乃と、それを見送る明神。

「…どうって?」

質問を質問で返したエージ。

「ど、どうと言えばどうだろう!あの二人はその…あれからどうなんだ?何か進展はないのか?」

ははあ。

言いたい事はわかったが、進展なんてものがあればこっちもむしろすっきりするってものだ。

「ねえなあ〜。二人とも鈍いし。どっちかっつーとヒメノの方は気にしてる感じがあるけど明神がな〜。」

「ふむ。」

言って、腕を組む澪。

…この人何でこんなに真剣なんだ?

なんだか可笑しい。

「冬悟も馬鹿な男だな。あんな可愛い、いい子が待っているというのに。」

「まあなあ。時間かかるぞ〜きっと。」

「冬悟の方から言ってしまえばいいだろう!何でこんなにモチモチと…!!情けない!それでも男か!ヤキ入れてくる。」

立ち上がった澪を必死で止めるエージ。

「ねねねネエさん!気持ちは解るけどよ!」

「何だ。お前も冬悟の味方か。」

ギラリとドスをかざす澪。

「いや味方とかじゃねえけどよ!」

「姫乃が可哀想だろう。そうは思わんか!」

「いやヒメノも大概だしな〜。ほら、見ろよ。」

指差すエージ。

玄関まで送る明神。

そして送られる姫乃。

「明神さん、昨日も遅かったんだし毎日無理して見送ってくれなくてもいいんだよ?」

「や、何ていうかいつも朝、廊下で転がってるの起こして貰ってるしさ、ついでだよついで。ひめのん行ったら寝るし。」

「そう?」

「えっとひめのん、それにオレが見送りたい訳だから…そんな気にしないで。」

屋根にしがみつき、このやりとりを息を呑んで見守るエージと澪。

「…これは、中々ポイントの高い言い回しだな。」

「精一杯の勇気ってとこか。でもヒメノがどう答えるかなんだよな。」

にこりと笑う姫乃。

「そっか。ありがとう明神さん。行ってきます!」

「あ…うん。いってらっしゃい。」

ひらりと手を振って見送る明神。

「…。」

「…。」

「…なんだあれは。」

「…なんだと言われてもなあ。普通に喜んでたなヒメノの奴。」

かくりと首を落とし、管理人室に戻る明神。

「あ!何だあの情けない背中は!!負け犬が!!ヤキ入れてくる!!」

「ねねねネエさん、落ち着いて!!」

澪は姫乃に甘い。

そして明神に厳しい。

可愛いもの好きな澪の事は何となくわかってきた。

まるで妹の様に姫乃の事を心配しているのだろう。

「ほっとくしかねーって!何だかんだ言って二人の問題なんだしよ。」

必死で押さえて留まらせる。

どさくさに紛れて胸に触れ様とした所強烈なアッパーを貰い二メートル程空を舞うエージ。

「…生きてりゃ何があるかわからないんだ。急に会えなくなる事だってある。…躊躇う必要なんかないだろうに。」

そう呟いたのを痛む顎をさすりながらエージは聞いた。

認識が間違っていた。

いや、間違っていた訳ではない。ただ、少し違った。

姫乃を妹の様に思っている。

姫乃を自分の事の様に思っている。

…後悔は、して欲しくない。

辛くて悲しくて、きっと優しい姫乃には耐えられない。

「…大丈夫だよ。」

澪の背中に、エージが声をかける。

「アイツらなら。多分。オレが勝手にそう思ってるだけだけどさ。」

振り返った澪は、少し驚いた顔をして、それからふん、と笑う。

「マセガキ。」

言うとエージの額を指で撥ねる。

「い痛ってー!!案内屋って奴はどうしてこう…!!」

見上げると、手をひらりと振って立ち去る澪の背中。

「…大人って奴はどうしてどいつもこいつもややこしく物事を考えちまうんだろうな…。」

オレにゃわからない。

ポケットに両手を突っ込むと、澪の後を追って屋根を降りる。

すると管理人室から盛大な罵声と何かが割れる様な音がした。

エージはうたかた荘の中に向いていた足を、外へと向け直した。


あとがき
企画も8つ目です。後少し。
澪とエージから見た明姫ですが、気持ち澪←エージ風味な気配もある様なない様な…。
エージは大好きで書くのも好きです楽しかったです…!!
こちらリク下さったひろのさんへ…!ありがとうございました!!
2006.11.19

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