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故意じゃない、恋なんかじゃない

「ほれ。」

手渡された紙切れが何であるか、明神にはイマイチぴんと来なかった。

「じいさん、ナニこれ?」

問いかけられた十味はしれっとした顔で答えた。

「今回の報酬だ。」

こう来るとはわかっていた。わかっていたから腹が立つ。

「どうして徹夜作業の仕事が紙切れに変わるのかな?じーさん。オレは同じ紙切れならちゃんと使えるもんがいいなあ。」

そう。昨日の晩にいきなり押しかけられ、急な仕事だからと引っ張ってこられ、大した事はない相手にしろすばしっこいわ逃げ回るわで気が付いたらすでに朝方。

つまり今。

午前4時。

眠気も疲労も機嫌の悪さもピークなこの状況で、報酬が渡された何だかわからない紙切れ一枚。怒りたくもなる。

「何を言っとるか。報酬があるだけ喜んだらどうじゃ。それにそれはれっきとした(使える紙)じゃぞ。」

はあ?これのどこがと詰め寄る明神に十味はよく見てみい、と促す。

「何これ・・・。映画の鑑賞券?」

「新聞屋に貰っての。ワシは行かんし勿体無いからやるよ。」

「・・・それって報酬っていうか、いらねえもんだからやるってだけじゃねーの?」

「そうとも言う。」

がっくりと肩を落とす。まあ、もともと期待はしていなかった。

まいど、と言うとさっさとうたかた荘に戻って寝た。

その存在を思い出したのが二日後の朝になる。






「あれ、明神さん。何コレ?」

脱ぎっぱなしで玄関に放置されていたコートを拾い上げると、ポケットからくしゃくしゃになった紙が出てきた。

拾い上げて、書かれている細かい文字を読んでみると、どうやらこれは映画の鑑賞チケット。

「あ、それ。そういや何日か前に十味のじーさんに貰ったんだった・・・。忘れてた。」

適当にポケットに突っ込み、うたかた荘に着いたら疲れと眠気でそれどころではない。そのまま寝てしまった為に存在をすっかり忘れていた。

「へー。映画のチケットかあ。明神さん映画とか見るの?」

「まあ・・・たまに・・・時々・・・?そういえばあんまり・・・。」

チカゴロノワカモノと会話を合わせてみようと試みたが失敗。そういえば最近映画なんか見た覚えがない。

「ふーん。じゃあさ、今度一緒に行こうか。」

「えっ。」

一瞬、明神の頭がフリーズする。

これは、いわゆるデートの誘い?ひめのんから?

「どうしたの?映画とか嫌いだった?」

固まったままで暫く止まっていたけれど、その言葉で我に返る。気が付けば姫乃はだいぶ近くまで来ている。

「やーははは。そんな事ないよ。行こうか!」

その言葉を聞くと姫乃はやったー!とチケットを持ったまま飛び跳ねる。

「何せタダだもんね!ラッキー♪」

あ、こりゃ違うわ。

何となく明神は悟る。普通に映画が見れると喜んでるだけ。こりゃ期待しない方が身のためだ。

・・・大体、自分は一体何を期待しているんだろう。

「じゃあ日曜にでも行くか。」

「うん!」






そして日曜日。運良く快晴。

二人は揃って映画館まで出かけた。

電車に乗って、駅を降りて。

お互いあまり慣れていない人ごみを掻き分けて道を歩く。

長身黒コートでサングラスに白い頭。

明神は目立つのか、やたらと人に振り返られる。

またそれが可愛い女の子と一緒というのがミスマッチで更に色んな視線が突き刺さる。

あー・・・。オレ、きっと色んな人の頭の中で犯罪者なんだろうな・・・。と考えながら姫乃を見ると、ごきげんでにこにこしている。

周りの視線は気にせず・・・というか、気付いていない。

映画館にたどり着くと、姫乃は腰にぐっと両手を当ててきりっと明神をみると

「さ、何観よう!」

張り切って言った。

怖いのは絶対嫌!

それだけは断固主張する構えである。

「ええっとね、オレあんまわかんないし、ひめのんが観たいヤツでいいよ。」

明神の方は、映画に詳しくもないし今どんなものがやっているか調べてもいなかったので、なんかおもしろそうなのがあれば・・・程度に考えていた。

そんな訳で観る映画は直ぐに決まった。

「良かった~。実はね、観てみたい映画があったの。」

そう言って姫乃が選んだのは冒険と恋の物語。

気分だから、と言って姫乃に言われるままポップコーンと飲み物を買い込み座席に着いた。

広くて薄暗い。

日曜の昼間だし結構人も入っている。

「早めに来て良かったね。」

あまり大きな声を出したくなかったのか、小声で姫乃が耳打ちした。

少し大げさにうんうん、と首を振って応える。

こんなの何年ブリだ?と考えると何だか明神はそわそわしてくる。

やがて映画が始まり、二時間が経過した。

「はあー。おもしろかった!!」

エンディングのテロップが流れ終わり、ホールの照明がつくと姫乃がやや興奮ぎみに言った。

「うん。なんか最近の映画ってすげーな。」

「そうだよね!でもさ、あのシーンとか凄かったよね・・・。」

映画館を出て、来た道を帰りながら話題はずっと観た映画の話。

もう暗くなってきている。すこしづつ、街灯が点りだしている。

明神が映画のシーン再現モノマネをして、それを見て姫乃が笑う。

商店街に入ったとき、ふと、姫乃は店のガラスに写った自分を見た。

正確には自分と、明神。

最初に思ったのが、明神さんって思ってるより背が高いんだ、という事。

普段から見上げてはいるけれど、並べて見てみる機会なんて殆どないからあれっ、と思う。

「ん?どしたひめのん。何か欲しいものある?」

後ろから明神が覗き込む。

あ。

ばっと店から離れると、何でもないよと先に歩き出す。

「そう?おいひめのんあんまり先行くなよ。迷子になるぞ~。」

「なりません!」

はっはっは、と明神が笑う。

もう、と言いながら姫乃は下を向く。

顔が熱くなってきていた。

今まで全然考えもしなかったけど。ガラスに写った自分たちを見て思ってしまった。

これは、いわゆるデートしている二人?

ちらりと明神の方を振り返ると、また一人モノマネを再開した。

よほど先ほど観た映画が気に入ったんだろう。

はあ、何考えてるんだろ。二人で映画に来ただけなのに。

・・・大体、自分はどうしてこんなにどきどきしてしまったんだろう。

気のせいだと自分に言い聞かせ、頬をぴしゃりと叩くと頭の中をいつもの姫乃に切り替える。

「じゃあさ、今度はあのシーンやってみて!」

「お、何でもこい!」

はしゃぐ二人。

「今度はエージやアズミも連れて行くか。あいつらタダで入れるし。」

ピクリ、と姫乃の眉が動く。

一瞬、あれ?と明神は思ったが、やっぱり笑顔な姫乃に勘違いかと思い直す。

笑いながらうたかた荘まで戻り、帰ったらハイテンションでパンフレットを広げる。

うたかた荘のみんなが集まって、一緒にそれを覗き込み、また笑う。

大事な事は心の中に閉まったまま。

気付かないふりをしたまま。


あとがき
超すれ違い明姫。どちらかが意識している時にはどちらかが気付かない。という感じでどうでしょう(誰に・・・。)
見ててああ、もう!!と悶える感じが伝わればよいのですが・・・。
お題二つ目。一つ目と二つ目が逆になりましたが、気分で行こうと思います。
2006.10.07

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