軋むソファーに背をあずけて

何か辛い事や嫌な事があったら、オレはこうやって軋むソファーに背をあずけて罠をしかける。

餌はオレ。

罠にはコツがある。

出来るだけだらしなく、でも笑えない程度にぐったりとソファーに寝そべり、表情はやや辛そうにするのがポイント。

目をしっかりと閉じて、あの子が帰ってくるのを待つ。

このまま本当に寝てしまうと元も子もないので、時計をしっかり確認してからオレはゴロリとソファーに転がった。

そして、いつもの時間になると、息を切らして姫乃が帰ってくる。

「ただいま!」

バタン!と元気良く玄関をあけて。

でもオレが寝ているのを確認すると、急に足音を忍ばせる。

ここからが勝負。

ヒタヒタと姫乃がこちらに近づいてくる。

オレが寝ているソファーの前で足を止めると、こちらを覗き込むのが気配でわかる。

「お疲れ様。」

小さな声でそっとささやく。

うん。今日は疲れたよ。ひめのん帰ってくるのずっと待ってたよ。

心の中で返事をする。

本当はすぐにでも姫乃を捕まえてしまいたけれど、それではこの狩りは成功しない。

ここはじっと我慢する。

すると、姫乃の手が伸びてくる。

目を閉じていても、閉じた暗闇の中に影が落ちるのでそれがわかる。

姫乃はそっと、オレの頭をなでる。

白い髪をすいて、なるべく優しくなでる。

「疲れてるのかな?何かしんどそうだね。」

くすぐったいけれど心地いい。

暫くそうしていると、姫乃は手を離して立ち上がる。

…かかった。

立ち去ろうとする姫乃の手を掴むとぐいっと引っ張る。

「え!?」

バランスを崩してソファーに倒れ込む姫乃をそのまま抱きしめる。

「ちょ、ちょっと明神さん!お、起きてたの!?」

「うん。」

「ずるいー!!」

文句は全部聞き流す。

先に触れてきたのはそっちだから、抵抗はするけれどそこまで本気で離れる事はできない。

全部計算の内だ。

そのうち

「…明神さん、何かあった?」

こうやってオレを許す。

これも全部計算済み。今回の罠は大成功。

できるだけ強く、でも苦しくないであろう程度に力を加えて抱きしめる。

耳元で姫乃の心臓がドクドクと音を立てているのが聞こえる。

何だか安心する。

そのうち、姫乃が抱きしめられたままオレの頭を撫でだす。

姫乃は何も聞かない。

オレも何も言わない。

こうやって時間をかけて、ただ癒してもらう。


何か辛い事や嫌な事があったら、こうやって罠をはって、優しいあの子を捕まえる。


あとがき
新しいお題を開始しました!
今回は20題…。頑張ります。
何かタイトル、というかテーマがあった方が書きやすい場合もあるので、こういうお題って凄いですよね。
「抱きしめたくなる〜」なんですが、のっけから抱きしめる気満々の明神でした(汗)
2006.10.26

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