風に吹かれたらきえてしまいそう

ガクは、自分の体が地面に転がっている事に、背中の冷たい感触で気が付いた。

…寒い。

そう呟いたつもりだったが声が出ない。

体を起こそうと体に力を入れるけれど、痺れたように動かない。

ああ、これは死だ。

まるで他人事の様に認識する。

体が冷える。

体の末端部分から少しづつ感覚がなくなっていくのがわかった。

これは、死だ。

殆ど動かなくなった体を、少しだけ捻り首を動かす。

隣で、すでに動かなくなったツキタケが目に入った。

先に逝ったのか。

守れなかったのか。

わなわなと、震える。

殆ど感覚のなくなった全身に、怒りという感情が駆け巡る。

言葉にならない、大きな雄叫びを肺の中がカラッポになるまで吐き出した。

未練なら、今腐るほど。

何でだ何でだ何でだ。

ポツポツと、雨が降り出した。

その雨が体から流れ出した血を洗う。

どうか、誰か。

早く気が付いてくれないだろうか。

せめてこの残されたツキタケの体がこの雨に打たれないせめて温かい場所へ。

もし生まれ変わる事があるのならもう一度今度こそ守ろうと。

そして、

「まだ見ぬ君よ…。」

これは。

これだけは己が「犬塚我区」である内に犬塚我区の口から。

「いつか出会い心からの愛を。」








ざあざあと雨が降る。

どうしても来て欲しいとガクに言われこの雨の中ガクの後をついて行く姫乃。

いつもと様子が違って、何だか気になった。

その姫乃の少し後ろをツキタケが歩く。

「ひめのん。」

急に声をかけられて、少し足を速めてガクの隣に並ぶ姫乃。

「何?ガクリン。」

「雨の中、歩かせてしまって本当にすまない。」

「いいよ。気にしないで。でもどうしたの?」

姫乃がそう言うと、目線を姫乃から前に移す。

「今日は…オレとツキタケが死んだ日だ。」

「え…?」

驚いて、ガクと、それからツキタケを見る。

「いつもこの日はツキタケと二人であの場所に行くんだけど、今年はひめのんにも来て欲しい。」

何と返していいかわからず、黙ってついて行く姫乃。

ピタリと立ち止まるガク。

「ついた。」

そこは何もない空き地。

ぼさぼさに雑草が生えて、なんの手入れもされていない。

ガクの隣にツキタケが並ぶ。

二人とも何も言わない。

その後姿を、姫乃は見つめる。

その背中が、とても切なくて。

二人とも、風に吹かれたら消えてしまいそうで。

思わず手を伸ばして、その手が二人をすり抜けてしまった事が余計に悲しくて。

「…ごめんね。」

涙がでた。

「ね、ネーちゃんは悪くないって!謝まんないでよ!」

「す、すまない!ひめのんを泣かせてしまうなんて!!」

慌てて慰める二人。

明神さんみたいにこの手が二人に触れる事がもしできたらどんなに良かったか。

…どんなに安心できたか。

「私は、二人に会えて本当に良かったって思うよ。」

「オレも、そう思う。これからも側にいさせて欲しい。」

「改めて、宜しくネーちゃん!」

こうやって、二人は一年に一回、生まれ変わるんだと、そう思った。

姫乃は空き地の入り口に跪き手を合わせる。

何に対しての祈りか自分でもわからないけれど、こうせずにはいられない。

雨の中座り込む姫乃に慌てるガクとツキタケ。

「ひめのん!濡れてしまうぞ!」

「風邪ひくから!ほら立って!!」

(ずっと一緒にいられますように。)

これだけ何かにお願いすると、立ち上がり二人に今出来る限りの笑顔を向けた。


あとがき
二人が死んだのが何かの事件に巻き込まれ…とあったので、それを匂わせる感じですが思い切り捏造です…。
前半がガク、後半が姫乃目線ですが、本当は全編ガクで書きたかったあれー…。
2006.11.24

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