買い物に行こう!
日曜日、晴れ。
明神と姫乃は二人で近所のデパートに買い物に来ている。
一ヶ月に一度、うたかた荘の唯一生きている住人からの家賃が入ったので日用雑貨等を買いだめしに来ているのだ。
すでに大体の買い物を済ませ、買い物袋を明神は二つ、姫乃は一つぶら下げている。
明神は買い忘れがないか確認する為ポケットの中のくしゃくしゃになった買い物メモを取り出した。
「えーと、トイレットペーパーは買っただろ?共同リビングの電球が切れてたのは帰りに電気屋寄るか。」
「うん。あ、そうだ。ついでに食料品売り場も行っていい?夕飯の材料も買っちゃうから。」
「ああ、そだね。っていうかひめのん、最近ずっとご飯作ってもらってるし、食費もどうするかちゃんと考えた方がいいかな。」
家賃は出して貰うのはまあ当たり前なのだが、最近姫乃がついでにと明神のご飯も一緒に作る様になった為にこの分の食費は当然姫乃が出しているという事になっている。
「あー。でもいいよ別に。一人分と二人分だとそんなに変わらないし。冷蔵庫はうたかた荘の使わせてもらってるもん。」
「でもなあ。」
一応、これでも「管理人」である。少し渋い顔をすると姫乃がにっこり笑う。
「それに、私も明神さんが買って来たもの食べたり飲んだりしてるもん。おあいこ。」
「うーん。そっか?」
「それに、管理人さんと住人っていうか一緒に住んでるみたいだもんね。あんまりそういうの考えてなかった。」
姫乃のこういう言葉は明神にはとても心地よかった。
ちょっと照れくさい言葉もこの子が言うと悪くない。そだね、とだけ答えて歩き出す。
エスカレーターを降り、地下の食料品売り場に向かう二人。
目的の食料品売り場に着くと姫乃はさっそく商品の物色に取り掛かった。
こういう事に慣れていない明神は先々進む姫乃の少し後ろについて行く。
テキパキと食品を買い物カゴに入れていく姫乃を見ながら、普段は子供っぽいのになあ等と考えた。
そんな姫乃の背中を見ながら無意識に安売りのインスタントラーメンに手を伸ばすと、振り返った姫乃にその手をピシャリと叩かれてしまった。
「せっかくご飯作るんだから、そういうの禁止!」
「いや、安かったからさ・・・。非常食で。」
「駄目!今後インスタントは全面禁止!体に良くないよ。」
「はい・・・。」
自分の普段の生活がだらしないのはわかっているが、これでは大人の面目が丸つぶれである。
ちぇーと口を尖らす明神を見て、姫乃はくすくす笑っている。
覚えてろ、とこっそり心の中で毒づいてるうちに会計を済ませた姫乃が明神の所に戻ってくる。
電気屋に寄って電球や電池を買い足して本日の買い物は終了。
帰路に着く頃にはすっかり日が傾いていた。
夕焼けの帰り道を二人で歩く。
帰ったらすぐご飯作るから、などと話をしていると少し冷たい風が吹いた。
「ちょっと冷えてきたね。もうこんな時期かあ。」
両手をこすり合わせる姫乃を見て明神は手持ちの荷物を左手にまとめると、右手で姫乃の左手をつかんだ。
突然手を握られて、えっ?と明神を見上げる姫乃。
「寒そうだから。」
そう言ってそのまま姫乃の左手を黒いコートの右ポケットに突っ込む。
姫乃の顔がみるみる赤くなる。
ちらりと顔を見上げると、明神はこちらをのぞきこんでにやにやしている。
「な、なんですか突然。にやにやしちゃって!」
「ん?ひめのん可愛いなあと思って。」
その言葉にさらに顔を赤くして下を向く姫乃。
明神がなっはっはと笑い出したので、ぐっと顔を上げて反論する。
「でも、これじゃ暖かいのは左手だけですからね。残念・・・」
言い終わる前に明神は手持ちの荷物を足元に置き、姫乃の荷物も取り上げてその右手をコートの左ポケットに突っ込む。
「これなら暖かいだろ?」
向かい合って立ち、姫乃の両手は明神のコートのポケットの中。
姫乃はああ、しまったと考えたがもう遅かった。
「・・・明神さん、これじゃ歩けないです!」
わざと怒った様に言ってみる。
すると明神はいち、に、いち、に、と言いながら歩き出す。もちろん姫乃は逆さ歩きになる訳で。
「ちょ、明神さん!わあああ!?」
大きくバランスを崩す姫乃。両手はコートのポケットの中なのでこける事はないが、そのままその場に座り込んでしまう。
両手がポケットの中なので膝をついて万歳をするポーズになり、とても情けない格好になる。
大声で笑い出す明神にもう!と何か言おうとすると、明神は姫乃の腕の辺りを抱きしめ、そのまま引き上げた。
一度姫乃の体が浮く程持ち上げられて、すとんと地面に着地する。
「うわ!」
「ごめんごめん。ちょっと意地悪したくなった。」
姫乃の耳元に話しかける。
姫乃は拗ねた様な顔をして黙っている。
「・・・」
「怒った?」
「・・・」
「あれ、怒っちゃった?」
「もう、明神さんいつまで抱きついてるんですか!」
顔を真っ赤にして訴える姫乃に明神はけろりととぼけてみせる。
「もう少し」
「もう!!」
からかわれているのか、姫乃はそう思う。
いつもはだらしない癖に。
「いいよ。じゃあご飯作ってあげないから。」
そう言うと、それは困るとやっと姫乃を放す明神。
明神のこういう態度は嫌ではないが、何だか心がチクチクする。
いつもへらへら笑ってこんな事するけど、その度にこんなに気持ちが一杯一杯になっているというのに。
顔をじっと見上げても、サングラスの中の瞳は姫乃を見つめて優しく笑っている。
またひゅっと風が吹き、さっきまで明神が触れていた以外の場所が酷く寒く感じた。
何だかなあ。
荷物を持ち直し、再び歩き出した二人。
姫乃は明神の気持ちがわからなくて、明神の少し後ろをとぼとぼと歩いている。
するといきなり明神が振り返り、また姫乃の手をぐっと握る。
何だか恥ずかしい様な、情けない気持ちになってくる姫乃。
からかっているならほおっておいて。
「もう、明神さんまた・・・」
「また、行こうな。」
「え?」
「買い物!」
にかっと笑いかける明神。
その笑顔を見ていると、姫乃の何だかもやもやした気持ちも薄らいでいく様に感じた。
今は幸せ。明神の真意はわからなくても。
「うん。また行こう。」
姫乃は繋がれた手を少し強く握り返した。
伝われ〜、伝われ〜なんて念じながら。
そんな気持ちを知ってか知らずか明神は上機嫌で歩いている。
二人はそのまま手を繋いでうたかた荘まで帰りましたとさ。
あとがき
仲いい二人を書きたいと勢いで仕上げましたが、なかなかうまくいかないもんです。
読みにくくてすみません・・・。
明神はマダオな感じも好きなんですが、大人の権力を振るう押せ押せな明神も凄く好きだったりします。
お題二つ目でした。
2006.09.28