いっちまえ

ああほら。馬鹿だなあ。

いつもいつも、見ていて馬鹿馬鹿しくなるけれど。

今日も俺はアズミを連れて公園に出かける。

遊びに行くってのは勿論だが、目的は他にもある。

誰にも言わないけど。

「ほら、アズミ見てろ!」

「うん!」

俺は魂の力を使い、野球のボールを作り出す。そして

「ゴーストバスター・・・ホームラン!!」

そのボールを空高く打ち上げた。

ボールは一気に空を駆け上り、空高くで霧散する。

「うわー!エージすごい!すごい!」

「へっへん!俺は天才だからな!」

「もう一回!エージもう一回やって!」

「おう!見てろ。」

こうやって、アズミの相手をしながら、頭の中では別の事を考えている。

ほら、今日もアズミを連れ出して、お前ら二人っきりにさせてやってんだぞ。

そろそろ何でもいいから進歩しろよ。

明神のヒメノに対する気持ちはすぐに気が付いた。

そしてヒメノの気持ちも。

はっきり言って、気が付いていないのは当の本人達くらいのもんじゃないだろうか。

バッカだなあ。

もう一発、空高くボールを打ち上げる。

ボールは高く舞い上がり空中でふわりと消える。

バッカだなあ。せっかく生きてるのに。

人間なんか、いつ死んだっておかしくない。

今ぴんぴんしてても明日突然、事故で、病気で、死んでしまうかもしれない。

数日後に控えた野球の試合。

週末に遊びに行こうと友人と交わした約束。

楽しみにしていた漫画の続き。

…全部まるでなかった事の様に、突然死は訪れる。

オレは未練があってこの世界に留まったただの死人だ。

そんな事はわかってるし…わかってるから。

もしアイツが死んじまったら、きっと未練があってこの世に留まったとしても、ガクの様に誰かに気持ちを伝えるなんて事はできないだろう。

アイツ、明神はきっとヒメノに気持ちを伝えるなんて事はできない。

アイツや、オレみたいな奴は。

ここ数日、オレは夕方になるとガクがツキタケと散歩に行くのを見計らってアズミを連れて公園に行く。

そして夕方までずっと、遊び続ける。

空が朱に染まり、そして少しづつ暗くなる。

「エージ、そろそろ帰ろう!」

「んー、だいぶ暗くなってきたな。ヒメノにどやされる前に帰るか。」

「うん!」

さあ帰ろう。

あいつらがいる家に。

今日はどうかな。

何か変化がありゃいいけど。

せっかくオレが気ィ使ってやってるっていうのに。

ヒメノが言い出せないならオマエが言やいいだろが、明神。

ほら、言っちまえ。

「たっだいまー!」

「ただいま!みょうじん!」

迎えるのは笑顔のヒメノ。

いつものヒメノ。

そしてのろのろと管理人室から出てくる明神。

ああ。今日もか。

バッカだなあ。

そしてオレは、また明日もアズミを連れて公園へ向かうんだ。


あとがき
エージ視点の明×姫とこっそりとエジ×姫・・・。密かに「ひとりごと」と繋がっていたりいなかったり・・・。
エージは子供だけどものすごい大人な感じがしますよね。
冒険とか探検とかには子供らしく食いつくのに、他は結構クールというか、男前。
そんなエージを目指しました。
2006.09.27
2007.05.30修正

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