うたかた荘in女子高生

「ただいま〜。」

いつもの様に学校から帰ってきた姫乃。

昨日の「仕事」が遅くまでかかってい為、夕方のこの時間まで管理人室でゴロゴロしていた明神は、時計を確認しながらずるりと布団から這い出した。

「おかえり〜、ひめのん。」

ドアから顔だけ覗かせてとりあえずいつもの挨拶を…と、明神の動きがひたと止まる。

「う、うおおおお!?」

ずざざざざ!っと廊下を転げる明神。

姫乃の後ろに遠慮がち…(目は好奇心できょろきょろしているが)に立っている、姫乃と同じ制服を着た女の子が二人。

「ひ、ひめのんが三人に!?」

「何言ってるんですか!友達連れて来たの!!」

「あ、ああそうか。ごめんごめん。」

「私がアパートに住んでるって言ったら皆が部屋を見てみたいって・・・。いいかな?」

いいも何も、ここは姫乃の家なのだから別に明神の許可はいらないのだが、一人暮らしというよりは六人暮らしみたいなものなのでついこんな確認をしてしまう。

「良いも悪いも、ここはひめのんの家だろ?ほらあがってあがって!オレ下いるし(てか皆が上に行かない様にするし)気にしないでいいよ。」

「わかった。ありがとう。」

おじゃまします、とあがって来る姫乃の友人二人。

丁寧にお辞儀されると明神も何だか照れる。

二人はボロアパートが珍しいのかきょろきょろと家の中を見回している。

と、突然。

「あ、そこ踏まないで!床が古くなってるから!」

姫乃の一言。

友人達は物めずらしそうにあっちこっちに感心し、いちいち感想を言いながら階段をあがっていく。

ひめのんもたくましくなったなあと明神がしみじみしていると、エージが壁からにょきっと顔を出した。

「何かうるせーな。ヒメノの友達?」

「おう、エージ。…なんだな。」

「何だよ。」

「ひめのんって女子高生なんだな。」

「そりゃそうだろ。」

今まで姫乃単品と接していた為にそんなに気になることもなかったが、友人達と並ぶとやはりそうなんだなと再確認してしまう。

セーラー服も、同じものがずらりと並ぶとああ制服なんだと意味無く感心する。

…気持ちは解るがあまり同意はしたくない。

エージは取りあえずこの場を去ろうとする。

「何か、体に悪いな。じょしこーせーって。」

胸の辺りのシャツを掴んでおもむろにつぶやく明神。

「もう年なんじゃねーの。」

言った瞬間、しまったと思う隙もなくエージの腕に関節技がかけられた。

「いでででで!!ギブ!ギブ!」

「口の悪い子はこうです!」

「自業自得だろ!今のは!!」

不毛なやりとりをしているとアズミが壁から顔を覗かせる。

「みょーじん、ひめのはー?」

手には絵本。

「ヒメノは今取り込み中。」

明神のサブミッションから逃れたエージが座り込みながら言う。

「えー!ひめのに絵本読んで欲しかったのに!」

お気に入りの絵本を抱えてエージに訴えるアズミ。

約束はしてはいなかったけれど、学校から帰ってきたらいつもは一緒に遊んでいた為に少しむくれている。

明神がアズミの頭ぽん、と手を置く。

「今ひめのんにお客さん来てるから、お客さんが帰るまで待ってような。それまでオレが読んでやるから。」

「うん!」

にっこり笑って絵本を明神の方にぐいっと差し出す。

普段は怪獣の異名をとるアズミだが、こういう素直なところが可愛らしい。

どれだけ普段痛い思いをさせられていても、明神もエージも構ってしまう。

三人は絵本を囲んでリビングに座った。






所変わって姫乃の部屋では、この一風変わったアパートと、その管理人の話で大いに盛り上がっていた。

「何か変わってる人だよねー。髪真っ白だけど、アレって染めてるの?」

「ううん。地毛だって。それに明神さん、変わってる訳じゃないよ〜。」

「へー。でも管理人だからもっと年とってるかと思ってた!でも優しそうな人だったよね。顔もいいし、背も高いし。」

女が三人集まれば当然こんな話になる訳で。

姫乃としては、このうたかた荘や明神を品定めする様な言い方をされるのはあまりいい気持ちはしなかたけれど、好意的に見てくれているのは感じたので特に何も言わなかった。

それに明神の事やこのうたかた荘についてのことをここで語っても仕方がない。

そのうち友人の一人がお手洗いを貸して欲しいと言ったので、少し気にはなったけれど一階にある場所を教えて見送った。

まあ、大丈夫でしょ…。

皆の姿はこの二人には見えないし、ガクも出かけてるみたいだから鉢合わせてって事もまだないはず。

こう考えていた姫乃の希望はだだだだだ!と階段を駆け上がってきた友人によって掻き消えた。

バン!と扉を開けて入ってきた友人は一応、声は抑えながらも血相かえて姫乃に訴えた。

「ヒメノ!!あの管理人さんやばい!一人で絵本の朗読してる!!」

ああ…。

くらり、とめまいを感じた。

まさか幽霊の女の子に絵本を読んであげてるんだよ、と言う訳にはいかない。

それに絵本を朗読…という姿がアズミが見えない人間の目にどういう風に映るのかは経験済みの為、友人のショックも良く良く理解できる。

慌てて姫乃は言い訳を考えた。

「ええっとね!ほら!練習中なの!」

『何の!?』

二人からステレオつっこみされるけれど、姫乃は怯まずきっぱりと言い切った。

「ここ、近所の子供がよく遊びにくるの!だからその時の為に練習してるの!明神さん、子供に人気あるんだから!」

半分は嘘ではない。

友人達も半信半疑、といった感じだが、何とか納得してくれた。

それからは特に何もなく、日も落ちてきた為にもう遅いよ、と明神が女衆に声をかけ、今日はお開き。

友人達はまたね、と帰っていった。

玄関先で手を振って、友人達の姿が見えなくなると姫乃は急いでうたかた荘の中に戻った。

「皆ごめんね〜。うるさくなかった?」

「いや、気にならなかったよ。ひめのんこそ楽しんだ?」

「うん。色々気になる事があって大変だったけど。」

友人達が一階に降りて来た為に隣の部屋に隠れていたアズミが壁を抜けてぴょこんと出てくる。

嬉しそうに姫乃の側に駆け寄ってくる。

「ひめの!アズミちゃんと待ってたよ!」

「ありがとう、アズミちゃん。えらいね。」

褒められたことが嬉しくてアズミはにっこりと笑う。

ごめんね、待たせて。

「あのさ、ヒメノ。アズミの相手する前にちょっといいか?」

「何?…あれ?」

呼びかけられてエージの方を振り向くと、エージの隣にツキタケがマフラーをふわふわさせながら座っていた。

何かあったのか、表情があまりよくない。

「あれ、ツキタケ君帰ってたの?じゃあガクリンは?」

聞くと誰かが何か言う前に明神が会話に割って入る。

「あーほっといたらいいぞ。いつものことだ。」

「アニキと帰って来た時、ちょうどねーちゃんの友達がトイレにおりて来ててさ、止めたんだけどアニキその子に声かけて…。」

あああ。

時間差で二度目のめまいがした。

「なんか、本当にごめんね。やめとけばよかったね。」

そう言うとその場にいる全員がそんな事はない!と否定する。

「そんくらいいいだろ。友達いなくなっちまうぞ。」

と、エージ。

「まあ、アニキのはいつもの事だし。ねーちゃんも学校大事にしないと。」

と、ツキタケ。

「アズミは大丈夫だよ!」

と、アズミ。

「家族サービスはいいけど、自分も楽しまないと青春は今のうちだぞー。」

と、明神。

そして。

「オレも大丈夫・・・。」

「ガクリン!」

「ひめのんがオレを見てくれたから、もう大丈夫。」

「・・・うん!ありがとう!」

それから姫乃は明神と自分の夕飯を作り、アズミに絵本を読み、エージと話し、ガクとツキタケと三人で将棋盤を囲んだ。

夜も遅くなって皆にお休みを言って自分の部屋に戻る。

今日は何だか大変だったなー・・・。

自分の部屋で布団に潜り込んで一日を振り返る。

学校が終わってうたかた荘に帰ってきてからいろんな事が気になって、楽しく話すどころではなかった気がする。

「うたかた荘は、ここの皆は何にもおかしくなんかないよ。二人がみえてないだけだもん。」

もういない友人に言いたかった事をつぶやいてみる。

「皆…全員。素直で可愛いし、無鉄砲だけど責任感あるし、ちょっと思い込み激しいけど頭が良くて頼りになるし、ぶっきらぼうだけど友達想いだし、…いつもはぼーっとしてるけど、いざとなったら頼りになって、かっこいいんだから。」

ずぼりと布団を頭までかぶる。

あの友人達にも皆がみえたらいいのに。

今日はもう少し、眠るのに時間がかかりそうだった。


あとがき
うたかた荘に姫乃の友達が来たらどうなるだろうと考えて書きました。思ったより苦戦・・・。
もっとすっきりと短い話にするつもりだったのですが、長引いてしまいました。いつか書き直したいなあ・・・。
ガクとツキタケが中途半端!なので、この二人はいつかリベンジしたいです。二人とも好きなんですが、明×姫だとなかなか入れ難くて・・・。
いかんいかん!
2006.10.04
2007.05.30修正

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