"今更"

学校帰り、オレはいつも通り加藤との対決を終えるとヒメノが教室から出てくるのを待った。
17勝8敗。最近加藤のヤツも腕を上げてきたみたいだ。まあ今の調子ならまだまだオレの方が上だけど。

少し待つと、ヒメノのやつが友人と出てきた。
校門で待ってるオレを見つけると、二コリと笑って手をふる。

あ。馬鹿。

ヒメノの友人達は「誰かいるの?」とか言ってヒメノのとオレがいる場所を交互に見る。
もちろん、普通のヤツにオレの姿なんか見える訳ないからヒメノは笑って誤魔化すけど。

友人に別れを告げると一直線にオレのところに向かってきた。

「ごめんね、エージ君。遅くなっちゃって。」
「いやいいけど、それよりお前人前でオレに手ェ振ったりすんなよ。変な目で見られるぞ。」

オレがこういう事を言うと、いつもヒメノは頬を膨らませて怒る。

「別にいいじゃない。私にはみえてるんだし。」

こういう事を言われるのはヒメノにとってはどうかわからんけど、オレは結構嬉しかったりする。

でもそれを言うと何だか悔しいから、バーカ。とだけ言っておくけど。

「もう。どうしてそんなに可愛くないかな。」

こんなやりとりはいつもの事だし、ヒメノもオレも本気で喧嘩になったりする事はまずない。
そのまま話は野球の話とか、授業中での出来事に変わっていく。

そのうちヒメノが何だか改まってこちらを見てきた。
いつもと少し様子が違う。

「あのさ、エージ君。」
「何だよ。改まって。」

立ち止まってオレもヒメノを見上げる。
ヒメノはうーん・・・と言って言いにくそうに目線を泳がせて、最後に決心した様にもう一度目線を合わせると、オレにこう聞いてきた。

「明神さんってさ、か、彼女とか、好きな人とかいるのかな。」

は?

今更何言ってんだコイツ?

オレがあからさまには?って顔をしてるとヒメノは慌てて顔を真っ赤にして弁解を始めた。

「が、学校でね、ほらさっきの友達!あの子達とその・・・、何だかそういう話になって、それでどうなのかなって。ほら!エージ君、私よりずっと前から一緒にいるし。」

そういう話ってなんだよ、と頭の中で突っ込む。
お前の事が好きなんじゃねーの、って言ってやる程お人良しでもない。
大体、そんな事を言ってもヒメノもどうせ信じないだろうし、もしオレがきっかけで二人が上手くいっても何だか面白くない。
明神はこのどニブイ女を自分で何とかすればいいんだ。

自分たちで何とかしろや。そう思って。

「いないんじゃねーの?」

これだけ言った。

「そっか。ふーん・・・。」

何だか安心した様な顔をする。
安心したかと思うと、くるりとこっちを向きなおす。

「・・・ねえ、この事、絶対誰にも内緒だからね。」
「おう。」
「絶対の、絶対ね。」
「はいはい。」
「アズミちゃんにもガクリンにもツキタケ君にもだよ。」
「わかったって。」
「エージ君だから話したんだからね。」
「・・・おう。」

だからこういう事をさらっと言うんじゃねーっての。

絶対、誰にも言わねーよ。

嬉しい様な、何だか悔しいような、複雑な気持ちだ。
まあでも暫くは悪くない。この「秘密を共有する二人」でいようじゃないか。





うたかた荘にたどり着くと、明神がリビングで出迎えた。

「おー今日は遅かったな。」
「うん。ちょっとね・・・。じゃあ、さっきの、内緒ね。」
「へいへい」

明神との挨拶もそこそこに自分の部屋に入っていく。多分ついさっきまで明神の事について話していたんで恥ずかしいんだろうけど。

あっさりとヒメノにかわされたのが気になったのか、明神がそーっとオレの方に寄って来る。

「なあ、エージ、ひめのん何かあったのか?」

これはちょっとした優越感。

「さあ?いつもと変わんないんじゃねーの。気にしすぎ。」
「そうか・・・。なあエージ。」
「あん?」

オレは何だか嫌な予感がした。

「ひめのんってさ、彼氏とかできたんかな。」

おまえもかよぉぉぉ!!!

「オレが知るか!できたんじゃねーの!?」

なにー!と食いかかる明神。いつ、どこで、どんなヤツ、と詳しく聞いてくる。アホか!

そのまま帰宅直後の大喧嘩が始まって、その騒ぎを聞きつけてヒメノが駆け下りてくる。

「こらー!何やってるの!!」

そのまま正座と説教。何で喧嘩したのか、についてはオレもアホグラサンも黙ったままだった。


あとがき

お題三つ目です。
今回はエージ絡みの姫→明で。姫←明でもありますが・・・。
お題では押しの明神を書くつもりが、意外と気弱な男に・・・。あらら。
エージは好きというか、恋愛感情があるかないか微妙なラインで姫乃が気になってるっていうのが好きです。
好きだけど、黙ってるみたいな漢なエージも好きですが。
2006.10.01

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