HAPPENING
DAY
ぐぬ…。
そう言いながら姫乃がテレビの前に座り、両手を胸の前で合わせてギュウと力を入れている。
一体何をしているのか、寝起きの明神にはさっぱりわからずリビングの入り口でぽかんと口を開けて立ち止まる。
「そんな事しても無駄な努力と思うけどな〜。」
それを見ながらニヤニヤと笑うエージ。
努力ってなんだ?
「う、うるさいな!そんなのわかんないでしょ!?」
「元が元だからな〜。」
元って何が?
「私まだ16だもん!これからだよ!!」
「えっと…おはよう。」
訳がわからないまま、このまま立っている訳もいかないので声をかけてみた。
「え。」
姫乃がインド人の様な体勢で首だけ明神を見る。
そしてそのままの格好で凍りついた。
その中で、エージだけが爆笑を抑える為に口を押さえて痙攣している。
「えーっと…。オレ、何かまずい時に来ちゃった…かな?」
沈黙に耐えられず明神が言うと、みるみる姫乃の顔が赤くなっていく。
「え…わ、た、て…。」
意味不明の言葉を言うと、突然立ち上がり、猛スピードで明神の隣を駆け抜ける。
慌てたのは明神。
え!?オレ何か変なこと言った!!?
「ま、待って!待ってひめのんっ!」
階段に向かう姫乃を更にスピードを上げて追いかける。
ボロボロの床がギシギシと悲鳴をあげるけれどかまってはいられない。
姫乃がその音に気付き、振り返ると明神が猛スピードで追いかけてくるのが見えた。
な、何で追いかけてくるの!!??
「やー!!こっち来ないでー!!」
うわあん、と泣きながら階段を駆け上る。
しかし明神としては、その「来ないで」の言葉に猛烈に傷ついた。
何で拒否!?何で泣くの!!?
更に慌てて階段を駆け上る。
姫乃は自室に入って慌ただしくドアを閉めると、明神がドアノブに触れる一瞬前に鍵を閉めた。
「あっ、こんにゃろ。」
カチャリ、という小さな音を聞いて思わず呟く。
鍵が閉まっているのはわかっているけれど何回かドアノブを回して扉が開かない事を確かめると、ドンドンと扉を叩き出す。
「おーい、ひめのん、オレ何かした?何で逃げるの!?」
「馬鹿ー!!ほっといて!」
今度は馬鹿!!?
「ひめのん!オレが何か悪い事をしたなら謝る!でもホント、オレ訳わかんねーんだけど!!」
「…。」
今度は沈黙。
何だ!?何でこんな事になってんだ!?
朝起きて、おはようと言ったらひめのんが逃げて!?
オレなんも悪くねーじゃん!!
そう思ったら急に腹が立ってきた。
「ひめのん、今回オレ悪くねーぞ!理由を説明しなかったら家賃上げます!門限つけちゃうよ!!?」
…ややあって、カチャリ、と鍵が開く音がした。
「入ります。」
扉を開けて中に入ると、部屋の真ん中に姫乃が座り込んでいる。
「どうして逃げたの。」
目の前に正座して正面から対峙し、問いかける。
姫乃はまた顔を真っ赤にしてうつむく。
この顔を赤くする意味がさっぱりわからない。
まさかインド人ごっこしてたのが恥ずかしかったとかそんなまさか。
「黙ってちゃわからないでしょ。」
姫乃の口がもごもごと動く。
何か言ったようだが明神には聞き取れなかった。
「何?」
「…だから…その、さっきのね、む、胸が大きくなるんだって。」
「…はい?」
「もう馬鹿!!何回も言わせないの!馬鹿!馬鹿!」
顔を真っ赤にして目に涙を浮かべながら姫乃は明神をぽかぽか殴る。
殴られた痛みより、色んな事が衝撃的でオロオロと部屋を退散する。
部屋を出ると明神の背後でドアが盛大な音を立ててしまり、もう一度鍵がかけられる。
まだ思考が纏まらずにぼおっとしているとエージが階段をのぼってきた。
「ご愁傷様でした。」
笑うのを必死で我慢しています、という体でエージが言う。
無駄な努力
元が元
まだ16
色んな言葉が頭の中で繋がった。
つまり、姫乃は自分の胸を大きくする体操をしていた所、明神がやってきて、それが恥ずかしくて逃げたという事で。
このやり場のない責任をどうしたらいいのか。
この気まずくなってしまった空気をどうしたらいいのか。
明神には他人にあたる事しか思いつかなかった。
「ゥエージイイイイィィィ!!!!!止めねえかあああああ!!!!!!」
「えええ!!オレかよ!!」
逃げるエージを捕まえて始まる一方的なサブミッション講座。
部屋の中には布団を頭からかぶって恥ずかしさに耐える姫乃。
「ひ、ひめのん、オレ別に小さくても可愛くていいと思うけど…。」
「馬鹿ー!!!」
乙女心って難しい。
夜になっても開かれない扉の前で、心底そう思う明神だった。
あとがき
まったりほのぼのした話が続いたので、ちょっと笑える(?)話を。
ひめのん脱いだらけっこうありそうなんですが(水着調べ)やっぱり澪さんと比べると…という事で。
この後明神は「天の岩戸作戦」とかいうダサい作戦を決行。玉砕して頂きたいところです。
2006.11.08