えいがかのじょ

せっかくの休日だというのに、その日は大雨が降った。

久々に朝から晩まで明神も姫乃も何もない一日だったと言うのに、雨が降ってしまうと洗濯も出来ないし外へ遊びに行く事も出来ない。

暇を持て余した二人はレンタルショップへ行って映画を借り、それで貴重な休日を過ごす事にした。

それぞれ適当に好みの映画を一本づつ借り、うたかた荘に戻ると共同リビングのテレビにデッキを繋ぎ、早速一本目の上映会が開始される。

まず観る事にしたのは明神が選んだアクション超大作。

開始一分後に始まるアクション、それから爆音、銃声、叫び声。

車が宙を飛び、ビルが爆発し、主人公はジェット機を乗り回す。

手に汗握って二時間があっという間に経過し、エンドロールが流れ出した。

観終わった後、二人は同時に「ふはー」とため息を吐き、同時に感想を言い合った。

「あのシーン、凄かったね! ドカーン!! って」

「ありゃ普通死ぬよな。良く生きてたよな〜」

「そりゃ、主人公があんなトコで死ぬ訳ないもん。それよりヒロイン役の……」

激論三十分後、今度は姫乃が選んだ感動の超大作を観る事にした。

舞台は中世ヨーロッパの雰囲気を漂わす架空の世界。

その中で愛し合うも、運命に弄ばれて引き裂かれる主人公とヒロイン。

国を捨て、一度は一緒に逃げるものの仲間の裏切りに合い、捕らえられもう一度引き離される二人。

ヒロインは主人公の無事を望み、自ら命を絶つ事を選ぶ。

今際の際、せめて来世で結ばれようと主人公から託された指輪を握り締め、これが最期と主人公に微笑みかけるヒロイン。

ヒロインの名を叫ぶ主人公の声が響き、バックには壮大な音楽がかかる。

その美しく壮大な映像と役者達の渾身の演技に明神が「おおお」と感動しながらフト横を見ると、隣の姫乃は今にも泣き出しそうな顔をしながら画面に食らいつく様にしながら映画を観ていた。

明神は自分の服についているポケットというポケットを探り、ズボンに突っ込んだままになっていたくしゃくしゃのハンカチを取り出すと、きもちそのハンカチの皺を伸ばし、姫乃の顔の前にそれを差し出した。

姫乃は明神を見上げてハンカチを受け取ると、今にも泣きそうな顔のままくしゃりと笑った。

その笑顔が何となく、先ほど死を覚悟して必死に微笑んだヒロインの表情とかぶり、明神は何だか嫌な気分になった。

映画は最高潮を向かえ、崖から身を投げたヒロインの身体は海へ沈んでいく。

そして、エンドロールが流れた。

女性ボーカルの静かな曲が映画の余韻をより強め、ハンカチで涙を拭きながら姫乃は「はー」とため息を吐いた。

「何だか、こう……いい映画だったねー。切なかったあ」

「そうかァ? オレはああいうの好きじゃねーな。特にラスト」

余韻に浸り、少しぼおっとしている姫乃に対して明神はソファーの上であぐらをかき、口を尖らせている。

面白かったと思うものを否定され、姫乃はムキになって反論した。

「ええー!? 面白かったよ! そのラストがいいんじゃない!」

「オレだったらあんな脚本にしねーなァ」

「じゃ、どうするの?」

「オレだったら……そうだな。ヒロインが海にダイブした時主人公が新しい力に目覚めてだな、ブワーっと走って飛んで、落ちるヒロインをキャッチ!
そんで邪魔する連中を千切っては投げ千切っては投げして大脱走よ。
そしたら裏切った部下のアイツ、名前何だっけあのモヒカンが実はスッゲーいい奴でギリギリになって助けに来てくれたりしてよ。
空からジェット機がキーン、そこから垂らされた縄梯子に捕まってさあ、行くぞ!! って……」

「それ、さっき見たアクション映画とごっちゃになってるよ、明神さん」

せっかくの余韻をぶち壊されて、姫乃は少しご機嫌斜めになった。

ソファーに足を上げて両腕で抱え込むと、ブウと頬を膨らます。

「だって、そっちの方がいいだろ? オレならそうするもん。絶対助ける。誰が勝手に死なせるか」

明神も拗ねた様に口を尖らせ、姫乃を真似てソファーの上で足を抱えた。

それから小さな声で「面白くねぇ」と文句をたれる。

姫乃は何度か目をパチパチさせ、明神を見上げた。

ああそうかと、姫乃は明神がむくれる理由を納得した。

明神は途中から主人公と自分を、それからヒロインを姫乃と重ねていたんだと思うと、無性にお腹の辺りがくすぐったくなった。

「……うん。明神さんなら助けに行くよね。私も、私だったら諦めて自分で死んだりしない。明神さんが助けに来るのを待つか、必死で逃げる」

「だろ?」

「うん」

姫乃が笑い、その笑顔がいつもの姫乃のもので、明神は何だかホッとした。

「お口直しにもう一本借りてくるか?」

「えー? 今度は何観るの?」

「そうだなー……最後ハッピーエンドで終るヤツ」

「そんなの観てみないとわかんないでしょ??」

「そうだけど、とにかくそういうヤツ観よう。スカっとするやつ」

言いながら、明神はさっさと出かける準備を一人で始めている。

ビデオを巻き戻して袋に入れ、パーカーに袖を通し、財布をズボンのポケットに突っ込んだ。

慌てて姫乃も薄手のコートを羽織り、レンタル屋の会員カードを確認する。

雨の中、二人はレンタル屋へもう一度足を運んだ。

そして二人で厳選して借りてきた映画のラストシーン。

主人公はヒロインに「さあ、行こう」と手を差し伸べるのだった。


あとがき
たしか、この話は思いつきと勢いで書いた記憶があります。
明神さんとひめのんはこんな感じで何もない休日を過ごしてたらいいなと思います。
2008.07.16

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