「平行線」
じっと待って、機会を伺う。
あなたの様子、話し方、間、仕草、呼吸を読んで「今何考えてるのかな」
今あなたと会話している内容なんて実はそっちのけで。
笑う笑う。
私とあなた。
でも実は楽しい会話なんてそっちのけで。
本当は解かってる。
あなたも待っているって事。
私が言い出すのを待っている。
時々、会話の間にじっと目を見つめたり。
「寒いなあ」なんて言いながら白い息を吐いている時にそっと手を握ったり。
ちょっとづつ小出しな愛情表現で私の様子を伺ってる。
臆病者!なんて言えない。
だって私もあなたを待っていて、多分それはあなただって解かってて。
勇気を出して一歩進んだらいい事で何も迷う必要なんてないのに。
この一歩を踏み出せない理由は何だろう。
今みたいな関係が壊れてしまうかもしれない不安?
自分に自信がないのかな?
それとももっと別の理由?
並んで歩く。
歩幅が違うからあなたは少しゆっくり、私は少し早足で。
話す時はあなたは私に合わせて少し首を下げて、私は首を上げて。
この違いを埋めるちょっとした苦労だってくすぐったくて大好き。
いつ言おう。
あなたが言ったら?
あなたはいつ言うんだろう。
私が言ったら?
二人で並んで歩く。
「寒いねえ」って言って、今日は私から手を伸ばす。
握った手が冷たかったのか、あなたはびっくりした顔して私を見る。
手を取って、息を吹きかけて両手で包む。
一生懸命暖めてくれる。
はあ、ってあなたが言う度に白い息であなたの顔がかすむ。
「ねえ明神さん。」
「ん?」
「…寒いね。」
「…そうだなあ。」
あなたが私の言葉を待つ。
私も、あなたの言葉を待ってる。
最初の一歩をどちらかが踏み出せるその日まで。
ずーっと続く平行線。
並んで歩く平行線。
あとがき
暫く拍手に入っていた小話です。
意外と気に入っていたりしました。