フライング

「ちょっと気が早くねえか?」

姫乃に頼まれて二人で市内のデパートに買い物に来た明神。

広場に飾られた大きなツリー。

店全体が緑色と赤色で綺麗に飾りつけられている。

11月のまだ上旬だというのにデパート内はすっかりクリスマス一色になっていた。

「最近は何でも準備早いもんねえ。きっとクリスマス終わったらすぐお正月になるよ。」

うへえ、と明神が呟く。

イースターが終わったと思えばクリスマス。クリスマスが終わったと思えばお正月。

本当に日本人の異文化への適応能力は異常に高いと心底思う。

要はお祭りが好きなのだ。

「あ、でもね。海外では一ヶ月前からツリーとプレゼントを用意して、クリスマスまでのカウントダウンを楽しむんだって。」

「ふーん。そんなもんかね。」

言いながら、今はクリスマスより今日の特価品。

買い物カゴを入れたカートを押しながら姫乃の後ろをついていく。

会計を済ますとデパートから出る。

自動ドアをくぐるとひゅう、と冷たい風が吹き込んできて思わず肩を竦める。

「寒くなってきたねえ。」

はあ、と息を吐いてそれが白くなる事を確認しながら姫乃が言う。

「そうだな〜。…ひめのん荷物重くないか?」

姫乃は学校鞄に買い物したビニール袋を一つ。それとは別にいつも体操服なんかを入れている袋を一つ持っていた。

「ん?平気平気!これそんなに重くないし。明神さんだってもう両手ふさがってるでしょ?」

「そんなに重くないし、片手で纏めるけど…。」

「いいよ〜、平気平気。」

そう言って少し歩調を速める姫乃。

明神もそれに倣ってついていく。

またひゅう、と風が吹く。

明神が肩をすくめ、はあ、と白い息を吐く。

「こりゃそろそろ暖房も準備しないとな。灯油あったっけ…。」

呟く明神をじっと見つめる姫乃。

うーん…と何か考え込み眉間に皺をよせる。

「…ひめのんどうかした?」

「う、わ!なんでもないなんでもない!」

明神がひょいと顔を近づけると姫乃がオーバーアクションで逃げる。

…これは何かある。

「寒い?重い?体どっかしんどい?何か気になる事でもある?」

必殺、心配性アタック。

さすがの姫乃もこれには参った。

「ん〜…じゃあ、もう、いいや!!」

そう言うと鞄を一旦足元に置く。

「え?」

いつも体操服を入れている鞄からずるりと何かを取り出し、それを突然明神の首に巻きつけた。

「…はい。コレ編んでみたの、マフラー…。本当はクリスマスプレゼントのつもりだったけど、寒そうだし…一ヶ月も待てなかったよ。」

ぽかん、と口をあけて驚く明神に、更に袋から手袋を取り出して手渡す。

「えっと…ちょっと早いけど。あ、ちゃんとクリスマスにも何か用意するね!」

首に巻かれたアイボリーのマフラー。

そしてお揃いの手袋。

嬉しくて、顔がほころぶ。

「これ、ひめのん作ったの?」

「うん…。ちょっと目が粗いけど。い、嫌かな?」

「そんな訳ないだろ!すっげー嬉しい。」

その言葉にほっとする姫乃。

「良かった。」

にこりと笑う姫乃に、明神はハッとする。

オレ、何も用意してない…!!

大慌てでポケットを探るものの気の利いた物が出てくる訳もなく。

「…ひめのん…。オレ出世払いでいいかな?」

凹みながら言う明神に姫乃は慌てて応える。

「い、いいよ!私がフライングしただけだし…それにうたかた荘の家計も苦しいし!…気に入って使ってくれたらそれでいいの。」

優しい気遣いがまた寂しい気持ちにさせる。

オレって甲斐性ねえな…。

甲斐性だけではなく先立つものもない。

がくりと頭を垂れる明神。

「ええと、何か落ち込ませちゃった!?あ、手袋もしてみて!サイズ合うかわからなくって…。」

明神も足元に荷物を置く。

「…お、ぴったり。」

「本当!?良かった〜。」

こっそり寝てる間にサイズ測ったんだよ、と笑う姫乃。

明神は何かを考えると、右手に嵌めていた手袋を外す。

それを姫乃の右手に嵌めさせると、買い物袋を纏めて持つ。

姫乃の学校の鞄もまとめて抱えると、「ほら。」と言って空いている右手を差し出した。

「…照れますねえ。」

言いながら、姫乃は差し出され手を手袋をはめていない左手で握る。

「…あったかい?」

上機嫌で聞く明神。

「…あったかいです。」

ややうつむきながら応える姫乃。

「ひめのんクリスマス何欲しい〜?…オレが用意できる範囲で。」

「ええと…。あの。」

ごにょごにょ呟く姫乃に耳を近づける明神。

「ん?」

「ま、またこんな風に、買い物したいな…。」

顔を赤くして応える姫乃。

…それなら毎日だってかまわないのに。

「えっと、じゃあ…明日。」

「え?」

「オレも、フライングで。」

その言葉に笑う姫乃。

「じゃあ明日。」

手を繋いで。

首にはマフラー。

手袋は片手づつ。

クリスマスまではちょっと遠すぎた。

カウントダウンも待てなかった。

お祭りは好きだけど、この際毎日が祭りでもいいと思う明神だった。


あとがき
企画7つ目です。お待たせしました…!!
カップリングの指定はなかったのですが、手が勝手に明×姫を…!!すみません。趣味に走ってすみません。
こちらはリク下さったカルさんへ。ありがとうございました!
2006.11.19

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