動悸息切れの理由

「がぜびいだ。」

「えっ?」

日曜、朝のうたかた荘。

姫乃共同リビングで遅めの朝食をとっていると、入ってきた明神がそう言った。

目が充血して頬も赤い。けほけほと咳もしている。

「わ、大変!外で寝ちゃったの!?ごめんね!朝ちゃんと家に入れたら良かった!」

「いやいや、今日は家の中にいたよ。昨日の仕事がけっこう遅くまでかかってさ。帰りに何か寒いな〜って思ってたのよ。そのまま寝て、起きたらこんなんでさ・・・。」

ぶびっと鼻をかむ。

典型的な風邪だ。何年ぶりだろうか。

「熱はある?薬箱どこ?」

「どっちもわかんねー。あんま使う事なかったし・・・。」

言い終わる前にげほげほとまた咳き込む。

朝食もまだ食べ終わっていないが、姫乃はとにかく薬箱を探し出した。

「あ、ひめのんいいよ。自分でやるし。飯食っちまえよ。」

「何言ってるんですか!フラフラじゃない!明神さんこそ座ってて。」

「はい・・・。」

迫力に押されたのと、正直ちょっとキツイのもあって大人しくソファーにだらしなく座る。

体がずるずると滑っていく。

「ああー・・・だりい。」

目を閉じる。

心臓がドクドク言っているのがわかる。

頭が熱くて体が寒い。そして重い。

呼吸も浅くなる。

あちこち探し回っていたが結局見つからなかったらしく、申し訳なさそうに姫乃が近づいてきた。

「明神さん、ごめんね。薬箱見つからなかったよ。」

声も何だか遠くに聞こえる。

こりゃ本格的にまずい。

「や・・・。それひめんが悪いわけじゃ・・・ないし。」

手をひらひらさせて、余裕を見せようとしたけど失敗した。


姫乃は心配そうにこちらを見ている。

おもむろに

「ちょっとごめんね。」

姫乃の手がすっと伸びて明神の前髪をどかすと、そのまま自分のおでこを明神のおでこにくっつけた。

ぐぶっ

喉の奥が、何か変な音を立てた。

顔、近い近い近い!!!!

「あー・・・やっぱりかなり熱いよ。明神さん、病院行った方がいいんじゃない?」

姫乃は両手で明神の両頬に触れる。

一気に、体の熱が上昇していくのがわかる。

こんな急激な変化に今の体はついていかない。

「あれ、明神さん。何か、どんどん顔が真っ赤に・・・あ、首も手も!!」

心臓が物凄い勢いで空回りしている。

呼吸もできない。

こ、これは死ぬ!?

「わああどうしよう!!誰か!誰か来てー!!」

ソファーの上でずるずると倒れた明神の体を、姫乃は両腕で抱え必死で支える。

明神の背中に姫乃の膝。

肩と頭に小さな手がそえられる。

・・・柔らかい。

ひ、ひめのんに殺される・・・!!!

姫乃の声を聞き、何事かと駆けつけるエージ達。

ひめのん、嬉しいんだけど!今だけは・・今だけはちょっとだけ離れて・・・!!!

言いたいけれど最早言葉も出ない。

薄れていく意識の下、どうせならこのまま意識がなくなってくれー、と思う。

電話で呼びつけられた十味が駆けつけるまで、明神はこの幸せな生き地獄を味わった。


あとがき
動悸息切れ・・ときたら風邪?
と思いついてこんな話に。がんばれ明神!ファイトだ明神!
お題三つ目でした。
2006.10.09

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