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ドアを開ければ奴がいる

「きゃー!!!」

凄まじい悲鳴が深夜のうたかた荘に響き渡る。
その声はうたかた荘の生きた住人、姫乃のものである。

その声を聞くや明神は管理人室のドアを乱暴に開け、彼女の悲鳴が聞こえた二階の部屋を目指しダッシュで階段を駆け上がる。」


「どした!ひめのん!!」

彼女の部屋へばん!と踏み入れば、ヒメノが座り込んでいる。
明神が来た事を確認するとよろよろと立ち上がりそのまますがりつく。

「明神さん」

声は弱弱しい。
明神は手のやり場とぐらつく理性をぐっとこらえ、とりあえず彼女を引き剥がし顔を覗きこむ。

「どうした?何かあった?」

目を見るとうっすらと涙を浮かべている。

「明神さん・・・!ゴ、ゴキブリ!」

「へ?」

一瞬、明神の思考が停止する。

「だからゴキブリ!部屋にいるの~!ほら!あそこ!!」

ああ。
そういう事。

うたかた荘はお世辞にも綺麗なアパートではない。てかぶっちゃけボロい。
掃除は綺麗にしていても出るものは、出る。

とにかく姫乃に何かあった訳ではないと分かると明神は安心すると同時にいたずら心が沸いてくる。
にへっと笑うと大げさに肩をすくめて姫乃の顔を覗き込む。

「なんだよ~ひめのん。何かあったかと思ってびっくりしただろ?」
「何かあったって、あるわよ!あんな大きなゴキブリ!わわ!動いてる!」
「そりゃ動くさ。」
「もう!早く何とかしてー!でないと私ここ出てっちゃうよ!」

それはたまらん、と明神は深夜のゴキブリ退治に精を出した。

「ひめのん、幽霊とか平気なのにな。」
「だって、エージ君やアズミちゃんは怖くないもん。あ!私の部屋のゴミ箱に入れちゃやだ!」
「へいへい」

用事を済ませ、もう遅いし、と明神は部屋をでる。

「おやすみ」

と言って背を向けると服の端をくいっと引っ張られる。
振り返ると姫乃が少し恥ずかしそうに下を向いている。

「何?」
「えっとね。夜遅いのにありがとう。ごめんね。」

その言葉に少し微笑む。

「大丈夫。オレ起きてたし。管理人だし。また何か出たら呼んで。寝てたら起こしてもいいから。」
「うん・・・。あれ、また何か出たら・・って、ここよく出るんですか?」

瞬間、びくっと肩を震わせる明神。

「えー、いや、なんつーか。そんなには、出ないと思うよ。多分。」

その言葉を聞くと同時に走り出す姫乃。

「待てーいッ!待ちなさーい!!」
「いやだあ!引っ越す!」

あれ、こんな事ちょっと前にもあったな、とか思いながら明神は姫乃を止めるべくその細い腕をしっかりと掴むのだった。


あとがき

はい。ひめのんは意外と虫とか平気かも・・・とか思いながら、うたかた荘にやってきてまだそんなに日が経ってないうちの話です。
1、2巻辺りのああいうやりとりも大好きだったので。
いいお題はないかな~と探していたら「同居人」という言葉にぐっときまして書かせていただきました。
またちょっとづつ色々書いてみたいと思います。

2006.09.28

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